第2話 王都の学校へ
「ようこそトール、エリー」
右手の扉から案内されて入った部屋にはいつも教会学校で教えてくださっている司祭のラインモルト様が出迎えてくれた。
ラインモルト様は真っ白いお髭の優しそうなおじいさんだけど実は王族でものすごく偉い枢機卿という司祭様だ。そんな人がどうしてこんな田舎町に来ているかというとこの町の近くにある古い遺跡の研究をしているからだ。
遺跡の発掘調査のために教会学校でも絵の得意な子供を集めて、壁画を写し取る作業をしていて、私もいつも呼ばれる。私は芸術的な絵が描けるわけではないんだけど、写すのは得意みたい。よく刺繍の図案を描いてるからかな?
初めは王族だと思ってかしこまっていたのだけれど、ラインモルト様は片付けの出来ない方で、思いついたアイデアをメモするのはいいけどそのままにして床に落ちていたり、本は出しっぱなし積みっぱなしにしたり、とにかく書斎がぐちゃぐちゃなのだ。あまりのことに見かねて、私が本を大きさと作者の名前で分けてさらに書籍名を文字順に並べ、メモも内容ごとに箱に分けて、見やすくした。
注意しないとすぐに元に戻ってしまうので、遠慮なく話しかけたから今では全然緊張しなくなったんだ。
通された小部屋はたくさんの本が棚に入っている応接室で、特別な客のためのソファとテーブルにはお茶の準備がされていた。
この教会にこんなきれいな部屋があったなんて知らなかった。ラインモルト様の書斎もいつもこんな風にきれいにしていただきたいものだ。
勧められるまま父さんと私がソファに座ると、ラインモルト様もその前に座った。座ったこともないくらいフカフカだった。
「今回の判定式でエリーに平民にしては強い魔力量と数多くのスキルが認められた。しかも水と風の属性魔法もある。もしやそなたら身内に貴族がおるのではないか?」
すると父さんは言いにくそうにしていたが、
「妻マリアの母親が子爵家の娘だったそうです。ですが属性魔法がなかったため騎士爵の父親に嫁いだと聞きます。父親は元平民です」
「そうか、それならばあり得ることじゃ。エリーの魔力量は472あっての。
500超えていれば魔法士クラスに入れるのじゃ。
属性は水と風と無属性で彼女の最適ジョブは錬金術師じゃ」
私に貴族の血が?母さんは平民で親はいないって言ってたじゃない!
それに錬金術師って?
「あの、錬金術師ってなんですか?」
「錬金術師とは、他に出ていた薬師・学者・技師の上位職じゃ。
魔法を使って薬やポーションを作ったり、魔道具を作ったり、料理や品物に付与魔法をかけたり、いろいろじゃな。そなたのスキルにピッタリじゃ。
ただしこのニールの町には誰もおらんがのう」
「楽士ってなんですか?」
「音楽を演奏する人じゃが、何か楽器をするのかな」
「いいえ、お祭りの時と人が歌を歌ってるのを聞くぐらいです」
たいていは酔っぱらいね。
父さんが少し沈んだ声でつぶやいた。
「それではエリーはウチのパン屋は継げない。そういうことですね」
「うむ、残念じゃが」
どうして?すぐに継ぎたくなかっただけでパン屋を継ぐつもりだよ?
「店を継げないってどういうことですか?」
「エリーはこのジョブ判定はどうして行うか知っておるかな?」
「ええっと、自分にピッタリの仕事につくため、ですか?」
「それも正解じゃ」
ラインモルト様は長いあごひげを触りながら続けた。
「一番の目的は市井にいる魔力量の高い子供を探すことと、その子供を教育して魔力の扱い方を学ばせ国のために有益な人材となってもらうためじゃ」
下を向く父さんの手がギュッと握られたのを見て、その子供とは私のことでこれから勉強して国のために働けと言われているんだとわかった。
「安心せい。魔術学校は全寮制で学費生活費必要経費はすべて国持ちじゃ。
もちろん卒業後に働いて返してもらうんじゃが、成績優秀者ならば奨学金として返還義務が免除される。エリーはかなり優秀じゃ。奨学金枠を狙ってみてはどうじゃ?
わしもよく発掘調査を手伝ってもらったし、出来る限りはさせてもらうぞ。
ただしジョブが錬金術師のため近くの学校ではなく王都の学校へ行ってもらうしかないがのう」
「王都……」
馬車で2週間以上はかかる遠いところだ。王都など考えたこともなかった。もう少し勉強したいと願っただけなのに。
ヴェルシア様、願いをかなえてくださって嬉しいですが、ここまで遠くなくてもよかったです。
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