錬金術科の勉強で忙しいので邪魔しないでください(web版)

さよ吉(詩森さよ)

第一章

第1話 ジョブ判定式

Warning ! 

書籍版からいらっしゃった読者様。

web版は書籍版に比べてウルトラハードモードになっております。

どうぞよろしくお願いいたします。

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 新年明けの1月10日、教会の中はいつもの穏やかな様子ではなく緊張した面持ちの子どもたちとその付き添いの大人でごった返していた。



 この日は国民の義務であるジョブ判定式だ。

 4月までに10歳になる子供は階級に関係なくこのジョブ判定式を受け、本人の才能能力にピッタリなジョブ、つまり職業を正義と知恵の神であるヴェルシア様より授けられる。

 この判定式を受けなければ罰せられるのでみんないると思う。出ていなくても許されるのは病気や怪我で動けない子だけだ。

 


ここで判定されたジョブで私たちの将来は決まる。


 

 私も心配で昨日なかなか寝付けなかった。他の子も待ちくたびれて居眠りしてたりや緊張からおしゃべりが止まらなくなっていたりして、だんだん騒がしくなっていた。



「大丈夫か?昨日あんまり寝てないんだろ?エリー」

「ちょっと眠いけど平気よ、父さん。それよりお店いいの?」

「ああ母さんが見ていてくれるからな。お前の将来が決まる大事な判定式だ。心配しなくてもいいぞ」



 私はエリー。平民だから苗字はない。

 2月に10歳になるパン屋の娘で父さん譲りの茶色の髪だけど、目は母さんと同じきれいな緑色なのが自慢だ。ほかの子より小さくて地味だからせめて女の子らしくたっぷりの長い髪でおしとやかにしている。



 ずっと心の中でヴェルシア様に祈っていた。

(いいジョブに就いて、町の初級学校に通って算術とか文学とかもやりたいです。図書館へも行ってみたいし。パン屋はその後でなりますからよろしくお願いします)



 私勉強するのが面白くてたまらない。これは父さんに似たのかな。父さんは子供のころからすごく本が好きで、平民なのに何冊も持っている。見せてもらえないものもあるけど、家にある本はほとんど読んでいた。

 でもウチはパン屋だ。

 もしパン職人か店員のジョブが出たら店の手伝いしかさせてもらえないし、早くに結婚することになってしまう。



 だからいっぱい頑張った。

 教会学校でも一番の成績を取ったし、薬師さんの手伝いもしたし、裁縫士さんの縫物や刺繍の手伝いもしたし、庭師さんの庭の手入れも手伝ったし、薬草取りの手伝いもしたし、司祭様のお手伝いもしたし、思いつく限りいろいろやった。

そうやって教えてもらったものはうまくすればスキルになりジョブ判定を左右する。

 


これで準備は万端のはず!





 そうして時間が流れ、とうとう私の番がやってきた。

「パン屋のトールが娘エリー、前へ来なさい」



 ジョブ判定は本人と教会の司祭たちのみで行われる。そのため前の祭壇の部分は幕で隠れていて誰も覗けないようになっていた。ヴェルシア様と対峙し、見極めていただく神聖な儀式だからだ。

 私が幕をめくって中に進むと今までの騒がしさが嘘のように消えた。

 


ビックリして振り返ると、

「驚かないでください。この幕はマジックアイテムで音や侵入者を遮断するものなのです」

 にっこりとほほ笑んだ若い司祭が判定式の説明をし始めた。

「まずあなたの魔力量と属性を調べ、そのあとスキルを見て、ヴェルシア様のお力で最適なジョブを判断されます。ジョブは1つの事もあるし、複数現れることもあります。それではこの水晶玉を触ってください」

 机の上には水晶玉が台座に上にポツンと置かれていた。



 私が深呼吸してからそっと水晶玉に触ると青と緑と白の光を放ち、触れるのをやめるとパッと消えた。

「おお、これはなかなかの魔力量ですね。500近くあるようです。平民ではめったにない量ですよ。属性は水と風と無属性ですね」

「あの普通だったらどのくらいですか?」

「そうですね。普通は白の無属性魔法だけで、30~40ぐらいですよ」

 ええっ~、それじゃめちゃくちゃ多いじゃないかと思ったけどそれ以上聞くことは出来なかった。

 次の儀式を受けなければいけなかったからだ。



 さらに上段の祭壇に進むとそこには白くて分厚い石板があった。

「こちらであなたのスキルを見ますので、どうぞ石板を触ってください」

 石板に触れると光を放ち、文字が浮き上がってきた。



 スキル習得大

 音楽

 楽器演奏

 絶対音感

 共鳴

 調和

 調律

 リズム

 料理

 製菓 

 製パン

 家事

 調薬

 園芸

 飼育

 裁縫

 刺繍

 採取

 付与

 鑑定

 計算

 言語能力

 整理整頓

 描画

 文字解読

 複写

 発掘

 研究

 細工

 努力



 ジョブ

 錬金術師、楽士、薬師、学者 技師 




 司祭が手早く文字の上に紙を置くと、現れた文字は紙に写って石板から消えてしまった。そのまま司祭はクルクルっと紙の中央をひもで止めてエリーに手渡した。



「おめでとう。あなたには上位職が現れました。これからの事を話したいので別室に来てほしいのですが付き添いはいますか?」

「はい、父さんが待ってます」

「では戻って祭壇右手にあるドアから控えの間に入ってください」



 私はもらった巻き紙を見つめた。

 薬師、学者、技師はまだいい。楽士?錬金術師?

 頭の中が疑問と不安でいっぱいだった。

 


 右手の部屋に行くのは特別な説明が必要とされる子供だけで、その部屋に行った子供は町の初級学校へはいけないって聞いていた。

 でも上位職と言っていたことを思い出し、とにかく言われた通り父さんの元へ行き二人で右手のドアをくぐった。







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