星の海
カレイ
星の海の正体
皆さんは「星の海」という伝説を知っているだろうか?遥か昔にとある村があったそう。その村は度重なる災害により畑や家が破壊され、村人たちは参っていた。
そんな中、「星の海」なるものが発現し、村人たちはみるみるうちに生気を取り戻し、三日で村を作り直したというのが「星の海」である。
その「星の海」の物語を僕がまだ小さい頃、祖父から何回も聞かされ、実際にあると思い込んでいた。
この物語は、僕が実際に「星の海」にたどり着くまでの冒険譚ともいえない冒険譚である。
どうか、笑いながらでも見てほしい。
高校二年の夏休み、皆は一体何をしているだろうか?海?キャンプ?旅行?はたまた恋人と甘い時間を過ごす者もいるだろう。そんな自由な時間に僕こと
「…やっぱりないなぁ。どっかに情報とかあってもいいと思うんだけど」
小さいころに祖父からよく聞かされた「星の海」。その正体について今調べているのだが…。
「星の海」のタイトルの本はおろか、少しの情報も載っていないのだ。
この図書館には小学六年生の頃から通い詰めているが未だに「星の海」についての情報が見つからないまま、気づけば高校二年生になっていた。最近では「星の海」というものは存在せず、祖父の適当な話ではないかと思い始めていた。
「やっぱり、星の海なんてものも伝説も存在しなかったのかなぁ」
ここまで探してもないということは、本当に祖父が適当な作り話を話していたという可能性が高くなってくる。
ただ、それでも諦めきれないのにはある理由があった。
小さい頃から運動が苦手で、友達もいなかった、そんなときに星の海の物語を祖父から聞いた僕は心がなんだかドキドキしたのだ。未知なるもの、自分が知らないものにワクワクしていたのだ。
ようは諦めきれないのだ、あのワクワクドキドキした感覚が諦めさせてくれないのだ。
心の片隅でまだ少年の心が騒いでいるのだ。高校二年生にもなってとても恥ずかしい話ではあるのだが。
結局夜までまた図書館で調べても見つからず、閉館時間となってしまった。
「今日も見つからないかぁ」
夜道で愚痴をこぼそうが誰も聞くものはおらず、ただただむなしく夏の夜の空に響くのだった。
家に帰ると母がちょうど夜ご飯を作ってくれていた。「ただいまー」と帰ると「おかえりー」といういつも通りの返事が返ってきた。
「星河ーそういえば今日家の整理してたんだけどこんなもの出てきたのよね。このノート、あなたの?」
そのノートには、「星の海」というタイトルが書かれていた。それを見たとき僕はとっさにそのノートを手に取った。
「僕のじゃない…僕のじゃないけど、これ…どこに…」
「それ家の庭の倉庫から出てきたのよ」
「ちょっと…これ…借りる!」
「あ!ちょっとご飯は⁉」
「あとで食べる!」
そう言ってこのノートを二階の自分の部屋まで持っていき、すぐさまノートを勢いよく読んでいった。
「間違いない!この文字は!」
そう、そのノートを書いたのは他でもない、祖父であった。ついに念願の星の海にについての資料を手に入れたのだ。
しかし、そのノートは昔に書かれたことと、倉庫の劣化によって起こった雨漏りにより、とても読めるようなものではなかった。
「そんな…折角初めての星の海に関する資料を手に入れたのに…」
この数年間の夢が叶うと思っていた。
落ち込みながらもパラパラとページをめくっていく、するとうっすらだが大きな文字で書かれたページを見つけた。
「七月十七日から八月二十四日の夜、山の上に×××…?」
なんだこれ、途中から読めなくなってしまっている。
だが星の海情報を一つ手に入れた!という喜びで気分がとても上がっていた。
「今日は七月二十九日か…。…よし、行こう」
そう思い立ったが最後、僕は止まることができなかった。
親の心配も、時間も気にせず、近くの山に向かって自転車をとばした。
山の近くまできて、自転車を止め、一目散に頂上に向かって急な山道を登った。
道なき道を歩き、暗い林を抜け、途中で崖にも落ちそうにもなった。そんな苦難を乗り越えやっと山の頂上まで登った…まではいいが今までの疲れでもう一歩も歩くことができず。頂上の草むらに横たわった。
しかし幾度待てども、何も変化などなかった。
今が何時かも分からない、帰り道なんて知るはずもない、というかなんで僕はこんなとこにいるんだ。もっと調べてから行くべきだっただろう。
そんなことを考えてしばらくたった。
「本当に…僕はなにがしたかったんだ」
ふとそんな言葉を口に出す。出したら止まらなかった。
「本当は星の海なんてないなんてわかっていたんだ。それなのになんで僕は…」
静かな山の頂上で次々と言葉を吐き捨てる。吐き捨てて、吐き捨てて、吐き捨て疲れた。
それでも止まらなかった。
「僕には、人に誇れるようなものなんてなくて、それを埋めるために星の海なんてものにすがっていたんだ」
そう思い途端に泣きたくなった。目じりが熱くなり、頬に雫が落ちていく。
その時だった、何もない空に一つの輝く星が通った。
それに気づきとっさに頭を上げて空を見る、すると次々に無数の輝く星たちが空を駆けて、消えていった。
その神秘的な光景に声も出せず、ただただ見つめていた。
透き通るように綺麗な空に輝く星々が駆けては消え、駆けては消えていく。
あまりの感動に今までの不安や絶望なんて、とっくのとうに消えていた。
そこで僕は気づいた。星の海の正体について。
「そうか…星の海の正体は『ペルセウス座流星群』だったのか…!」
昔の村人たちが度重なる災害にも負けず、村を三日で復興出来たのは、この流星群を見て、神のお告げかなにかだと信じ、もう一度立ち上がり、村を復興させたのだ。
「はは…なんだよそれ…」
あまりにも可笑しくて僕はしばらく笑っていた。笑って、笑って、笑い疲れたころにはすっきりとしていた。なんだか憑き物が落ちたような気分だ。
僕には誇れることもないし、特別な力もない。
でもそれでもいいじゃないか、少しづつ、少しづつ自分に出来ることを探して行こう。
挫けるかもしれない、絶望するかもしれない。
でもきっと大丈夫だ。
あの日の、星の海の出来事を僕はずっと忘れないから。
星の海 カレイ @aspiration
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