第4話『冬の灯』

遠い、遠い、曇り空を見つめていた。

冬も、もう終わり。2月29日。

一面の雪景色だけが、そうだとは思えないような景色になっている。

ふぅ、とため息とも深呼吸とも取れない息を吐いている俺、幸郡 冬真(ゆきごおり とうま)は、今年から高校三年生になる、ごく普通の男子高校生だ。

俺にも新しい出会いは無いものかと、雪景色を眺めつつ、歩道橋から見える4人の男女を眺めていた。

4人はカップル同士なのだろうか、仲良く手を繋いで、それぞれが会話を交えながら、笑顔でこちらへと向かってくる。

「あれー?幸郡じゃーん!」

すると、前から聞きなれた声が聞こえてきた。

「あぁ、彩先輩、お久しぶりです」

「おーひさー!・・・でもないかぁ、文化祭ぶり!・・・あ!フッフーン、もしかしなくもなくもなくても、あの4人の事・・・見てたでしょー?」

彼女は俺の高校の先輩だった、夏色 彩(かしき あや)先輩だ。

俺が高校1年生の頃に先輩は3年生だったので、約2年経った今、先輩は大学に通っているので、今年で大学2年生になる。

ちなみにコンビニ店員で、確か弟がいたはずだ。

「まぁ、見てましたね。・・・そういえば、今日はうるう年ですね」

「そーだねー、『4年に1度の奇跡の日』だよ」

「奇跡の日?」

「うん、毎年この年になると、私の知り合いとか友達とかの周りの皆とかが、何故か必ず幸せになっていってるから、自分はそう呼んでるんだー」

「へぇ、そんな偶然ってあるんですね」

俺がなおもあの4人を眺めていると、先輩は妙に口角を上げて橋の手すりに両腕を置き、目を細めながらあの4人を眺めて、

「いつもね、いつも思うんだけれど、ああいう人達を見ると、幸せを分かち合いたくなるよね」

「・・・偽善者ですか」

「ちがーうちがーう!まぁ確かに偽善者として見られても仕方がない事なんだけれども」

「・・・やっぱり、彼氏がいる私としては、心の底からあの人達は応援したい」

「・・・さいですか」

俺はそう呟くと、「さよなら」とだけ呟き、俯きながら歩道橋を後にした。

──しようとした瞬間、

「おーい!カバンカバン!忘れてるー!」

「あぁ!そうでした、すみません!」

そうして俺がその先輩が掲げているカバンを取ろうとしたところで──

思い切り滑ってしまい、転けてしまった。

突然の事に自体が把握出来ないでいる俺に、先輩はクスクス笑っており、

「懐かしいね〜、確か4年前もそうだったよね」

「え?・・・あぁ。はい、そうでしたね」

4年前。

まだ俺が中学2年生だった頃。

その時はあまりよく知らなかった先輩と、この橋の上で今起きた光景が起こり、それから先輩と俺は仲が良くなっていった。

「・・・4年もこんな関係が続いてるって、素敵だねぇ」

「・・・はい、そうですよね」

俺が俯いて下を通る車を眺めていると、上から、白い物が無数に降り注いで来た。

雪だ。

珍しい事もあるものだな、と、「そろそろ冷え込むので、それでは」と言おうと先輩の方を向こうとすると、

「君はひとりじゃないからね」

「・・・!」

突如、先輩がそんな意味深な事を言い出した。

急に何を言い出すんだろうかと、目を見開いて先輩を眺めていると、

「ずっとひとりだと、思ってるでしょ」

俺は暫く目を見開いて先輩を凝視していたが、手を心臓の辺りに置いて心を落ち着かせると、

「・・・はい、先輩が俺の傍にいるのも、俺と話してくれるのも、ただ一人ぼっちだから可哀想っていう同情だと思っています」

「違うよ」

先輩は俺の微かな声に、ハッキリと、大きく否定した。

「君はひとりじゃない。もし一人だったら、友達、家族、ペット、親戚なんていなくなる。・・・ほら、誰も一人じゃないでしょ?それに、もしその誰もが当てはまらないなら、趣味とかがあるじゃん!それで友達を作ればいいじゃん!ネッ友も、悪い人じゃなければ素敵な友達だよ?それにほら、現に私という美女がいるじゃない」

先輩はそう言って胸を張ると、鼻息を荒くして俺を見つめた。

「・・・」

「ちょっとー?反応してくれますかー?」

「・・・ふふっ」

そうだな、自分の考えが馬鹿らしい。

「な、何が可笑しいの!」

先輩、こんな事考えていたんだ。そうやって、生きてきたんだ。

「・・・いや、だってっ──」


──あまりにも可笑しくって、あまりにも楽しそうじゃん、その人生って。


「──先輩、可笑しいですよ、自分の事を美女って呼ぶなんて。」

「そんなわけなぁぁい!私はミス・コンテストで100位には選ばれそうな顔立ちはしてるさ!」

「それでも100位なんですね...」


「あ、姉ちゃん、こんな所で何してんの?あ、幸郡さん、ご無沙汰してまーす。」

「あ、彩さん!こんにちは。」

「あー、渚のお姉さん、お久しぶりです。」

「あれっ、もしかして皆知り合いなの?茜だけ?私だけ知らないの、これっ?」


皆が笑って、皆で楽しんで。

春夏秋冬で起きる、甘酸っぱくて、不幸せそうな、幸せな日々。







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高校生は春夏秋冬 えびチーズ @EbiCheese

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