第3話『秋の色』

夕暮れ時。

目の前に広がる茜色の夕日を見て、夏の終わりを感じている私、あかつき 亜希あきは、皆から美少女美少女とお世辞を言われる、普通の少女だ。


周りは常に「可愛い」「美少女」と言ってくるが、私には分からない。それとも、お世辞を言っているのか、貶しているのか。


その、『可愛い』と『美少女』と言われる境界線を、私は知りたい。


私は部活帰りに、学校の近くにあるコンビニへと寄って、今絶賛片想い中の夏色かしき なぎさ先輩のお姉さん、夏色かしき あやさんがコンビニのバイトをしているのだ。

彩さんは、私が夏色先輩が好きだと言うことを一目見て見抜いた、唯一の相談相手。

「いらっしゃ──あ、亜希あーちゃん!どう?渚と上手くいけてる?」

「いえ、まだまだです・・・。けれど、今日は部活の休憩時間に、先輩と一緒に自販機でジュースを買いに行きました!」

「う、うーーん?それは、進歩って言うのかなぁ・・・?」

彩さんが、バーコードを片手に、頭に?《はてな》を浮かべる中、私は近くにあったおにぎりとお茶を取って、レジまで持っていった。

そうしてレジ袋へと商品を器用に入れて、こちらへレシートとお釣りを渡してきた。

「あ、というかあーちゃん可愛いじゃん!美少女に弱いあいつのことだから、グイグイ行けばイチコロだって!」

「う、うーーーーーん・・・?皆、私のこと美少女美少女って言うんですけれど、それってお世辞なんですか?」

すると、彩さんは一瞬きょとん、とした後、豪快なほどに笑いだした。

「あっははは!・・・人の好意は素直に受け取った方がいいんだよ?」

そう言われて、ハッとした。目に潤みがさした。

そっか、私、ひねくれてて……

「だって、周りからも可愛いって言われてるんだから、それって凄いことじゃん!私も『可愛い』って言うんだからあーちゃんは十分に可愛いよ。それに、」

彩さんは俯いて、そして一瞬目を細めて微笑み、こちらを向いた。

「ブスとかキモいって言われても、気にしなければいいし、言わせときゃいいの!もし耐えられないなら友達とか先生とか家族に相談すればいいさ。迷惑なんてかけてかけられの関係だし、逆に迷惑かけてやるって感じで話せばいい!面倒な事になるとか言って避けてたら、いつか、いつか誰にも・・・。まぁ、とにかくあーちゃんは可愛いよ。」

そう途中で言いかけたことを遮って、もう一人の若い、彩さんと同じくらいの年の男性店員さんが「彩、交代だぜ」と肩に手を置いて意気揚々と喋っていた。

私はそこで「ありがとうございます、彩さん」と言って、コンビニを後にした。

・・・よし、頑張ろう、私も!



そして、今度は親におつかいを頼まれた。

なんで私が、と思いながらも、スーパーで商品を買い、家へと向かっていると、

「あ、姉ちゃん。」

「んー?あ、渚ー。」

バイト帰りなのか、道を歩いていた彩さんが、部活が今終わったのか、夏色先輩と一緒に帰っていた。

私は急いで影へと隠れると、そこから様子を見ていた。

そうして近くにあった自販機の隣にあるベンチに腰かけると、

「そういえばさ、姉ちゃん。」

「うん」

先輩は一拍置くと、ふぅ、と自販機のジュースを飲んで、無表情で空を見上げて、


「今日、亜希ちゃんとお話してたでしょー?」


ドキッとした。

もしかして夏色先輩、私の事見てた・・・!?


すると、それを聞いた彩さんはニマニマしながら夏色先輩に近寄り、


「えー?何々?もしかして好きなの?その子のことー?・・・そういえば、あの子、あんたの事好きって言ってたよ?」


そうして、彩さんはなおもニマニマして夏色先輩を見つめ──

ちょ、ちょ、ちょっと彩さん!?ば、ば、ば、バカなんですか!?そんなことをどストレートに・・・!


ドキドキと不安が入り交じりながらも、先輩を見つめること数秒、


「そ、そそそそそそんなわけないだろ!・・・第一、俺みたいな奴が好かれる訳ないじゃん、あんな美少女と!好かれたから嬉しいけれどもさ!」



そう言われて、何故だかドキドキと共にホッとした。


一息ついて、二人とは真反対の空を見てみると、まだまだ茜色の夕焼けがギラギラと照っていた。


「あ、あの!先輩!」


そして私が先輩を呼ぶと、先輩はびっくりして、彩さんは「ふふっ、やっぱり」と言って微笑していた。


「実は、私、先輩の事がっ───」


私と先輩の真上には、一番星が輝いていた。

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