手紙

「海を遊び尽くし、お風呂も行った!そしてお待ちかねの…!!御馳走だーーー!!」


 ヒャッホーー!と喜びながら、刺身やらの御馳走が大量に並べられた座卓に寄り添う。


(これ…一体幾らするんだ?)


 どう考えても5000円とかのレベルじゃない。まぁ今回の旅行は、『空はバイトで忙しいから私がやる!』という名目で、アリスが予算などを立てたんだが、大丈夫かこれ…バイト代全部すっ飛びそうだが。


「どうしたの空!早く食べよ食べよ!」


 座布団に座って、隣に座れと、ポンポンと座布団を叩く。


(まぁ、良いか。少しくらいなら)


 俺はそう心に思い、アリスの隣に座って食事を楽しむのだった。


………

……


「はい空、あーん!」


「あんっ…。ん」


「へへっ、あーん!」


 俺らはお互いに食べあい、食べさせ合う。そんなバカップルみたいな事をやっていた。

 いつもとは違う外国人の様な顔立ちをしたアリスが浴衣を着ている姿はギャップというか、とても美しかった。その美しさと相まって、アリスを襲いたくなる衝動を堪えまくる。


「へへ、幸せ〜」


「俺もだ」


 10年ぶりに再会して、たった1年程度でここまで変わるとは思わなかった。最初の頃は俺もかなりトゲトゲしかった筈なのに、アリスはそんなのお構いなしに好意を向けてきた。

 それが…どれだけありがたい事なのか、前にも理解していたはずなのに、最近もっとその感謝が強まっていく。


「アリス…」


「ん?」


「ありがとな…俺を…助けてくれて」


 アリスは俺を助けてくれた。何度も。それに対する感謝は、言葉だけじゃ足りない。もっと…形に残るものでやりたかった。だけど、今回俺はただの旅行だと思っていたから、それは用意していなかった。


「…お礼はコッチだよ…」


 箸を置いて、俺と向き合う様に体制を変える。


「最初は…言い訳だった。勿論空が好きで、アメリカから出てきたってのもあった。だけど…ずっと心の中で…そうじゃない、私はただあそこから逃げたかっただけだって…思ってた」


 アリスは太腿に置いている両手を強く握る。

 以前にも聞いたことがある様な事。それに失望なんて一切しなかった。

 

「それは…変わらない。だけど空はそれを知っても、私に一杯、いっぱいいっぱい、いろんな事をしてくれた。数え切れないくらい、こんな醜い私を幸せにしてくれた。本当に…ありがとう」


 アリスは、右手の薬指にある指輪を大事そうにさする。それは俺がクリスマスにプレゼントしたモノで、いつも肌身離さず持っているものだった。


「お互い、感謝の気持ちは同じレベルか」


「なら…この時点でも、引き分けだね」


 同じくクリスマスに、俺から仕掛けた勝負。どっちがより相手を幸せにしてあげられるか。この時点でもドロー。

 このまま引き分け、どちらの勝者も無しというのは面白くない。何故なら、アリスが俺のことを想っているより、俺がよりアリスを想って居るからだ。


「アリス、キスしたい」


「良いよ…」


 そして俺とアリスは、抱きしめあったまま数分間、愛し続けるのだった。


………

……


「んっ…あっ?」


 目を覚ますと、そこは見慣れない真っ暗な天井。起床したが、まだ深夜である事が窺えた。

 いつもとは違う座敷の布団だから寝付けなかったんだろうと勝手に理由を付けて、隣にいるアリスの寝顔を見てやろうと横を向いた。


「あれ…?」


 だが、アリスの姿が見当たらない。布団を手で触って確かめるも、居ない。気になった俺は立ち上がって部屋の電気を付けた。


「居ない…」


 トイレに行ったか?と思い周囲を見渡すと、御馳走が並べられた机の上に、ポツン、と一つの置き手紙があった。



それを見た瞬間


血の気が引く。


夜中だというのに構わず、鍵もかけずに部屋を飛び出して、走り出す。


その手紙には



『この関係を終わらせたい』


と、短く告げられていた。

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