空君とアリスちゃん、喧嘩するってよ

「なぁ空…なんで俺には彼女できないのかな?」


 死んだ顔で和人がそれを告げてくるが、俺の知った事じゃないので無視をして帰ろうとする。

 だが手首を掴まれそれも無駄に終わる。


「うぉい!困った友人を放って帰るのかお前は!」

「だって今日俺アリスとデートだし、優先度的にはそっちの方が高い」


 寧ろ全ての優先順位がアリスより上に来る事は無いと断言出来る。


「そう!そうそうそれだよ!!なんでお前にはクッソ可愛い彼女が居るんだよ!!コツとかあるのか!?教えてくれよぉぉ!!」


 半端俺に泣きつくような形で下がってくる和人。一体なんかあったんだろうかと考えると、時折和人と一緒に居る、橋本陽介が俺に言う。


「なーんかラブレター渡されたからモテ期が来た!とか思ってたけど、それは別の人に渡してくれって言われたんだって」


 要するに、直接渡すのは恥ずかしいから別の人、この場合は和人を利用して告白しようと思ってたわけか。


「へぇ〜。それでこんな狂気に陥ってんのか」


 今現在コイツの心のダメージは計り知れない。流石に可愛そうなので合掌……してからアリスの元に行こうと歩き出すが、ズルズルとゾンビの如きしつこさで俺を離そうとしなかった。


「まっでぐれよぞらぁ!!やっぱ顔か!?顔なのか!?でも顔のレベルなら空って俺より少し高い程度だよな!?」

「いやぁ、そんなわけないじゃん和人、頭腐ってんの?空って普段超無愛想だから分かりにくいけど、結構レベル高いよ?」


 平然と毒を吐くなぁ橋本。少し怖い。


「ぐふっ!!」

「おまけに和人が得意なスポーツテストを全部格上の記録で塗り替えて、成績も和人より、というかテストで十位以内には食い込んでるから頭も良い。最近じゃ料理も出来始めてるんだっけ?」


 確認と言った風に俺に視線を向けてくる。


「まぁ…多少の料理ならな。これを作れと言われたら…まぁ作れるレベルには。まぁ流石にフランス料理とかは無理だけど」


 日本食、和食、中華とかなら大体作れるレベルには成長した。まぁ結局全部アリスが作った方が美味いし、レパートリーもとんでもないほどある。アレは夫になるやつは幸せ者だ…おっと。俺が夫になるから俺が幸せ者になるな。


「ね?こんなドチートに和人みたいな生虫が真似しようなんて無理だよ?」

「ごはぁぁ!!」


和人が口から大きく血を吐いて倒れた。(幻影)


「なぁ、もう帰って良いか?そろそろアリスと待ち合わせなんだけど…」

「あれ?なになに?なにやってるの?」


 噂をすればなんとやら、俺の背後からアリスがひょっこりと姿を現した。


「やぁアリスちゃん。今さっき、君の彼氏がどんなに凄いのかってのをやってたんだ」

「お?ふふん。どう?空ってばすっごいでしょ!私の自慢の彼氏だよ!!」


 ギュゥっ!と勢いよく俺に抱きつくアリス。

 ヤッベェ…マジで可愛すぎる。


「ふふっ、面白いね2人とも。ならさ、2人でお互いのいいところを言い合うゲームをしてみてよ。それでコイツをもう一回殺そう」


 橋本は、影が薄いやつかと思ってたが、意外とマジのドSだったようだ。和人を一回殺して死体蹴りをした挙句、もう一回殺そうというのだ。

 でも、そのゲームは面白そうだ。


「やってみようぜ。アリス」

「いいよぉ!かかってきんしゃい!!」


………

……


20分後


「ふざけんなよアリスてめぇ!」


「そっちこそふざけないでよ!!」


 俺とアリスは、いつのまにか喧嘩を行なって居た。さっきやって居た好きなところを確認し合うゲームが発端なのだが…。


「俺のほうがアリスを想ってるに決まってるだろ!?」

「私の方が空を想ってるに決まってるでしょ!?」


 その言葉が教室中に響き渡る。好きなところを言い合いするゲームのはずが、いつのまにかどちらがよりお互いを愛しているかに変わってしまい、それがいつの間にか喧嘩になってしまった。


「空の声、掌、仕草、その全部が優しくて私がどれだけ毎日毎日癒されてると思ってるの!?私の方が空を愛してる!!」


「こっちこそ!俺がバイトで疲れて帰ってきたときに出迎えてくれる「お帰り」っていう言葉で俺がどれだけ癒されてると思ってんだ!俺の方がアリスを愛してんだよ!!」


 お互いが睨み合って喧嘩を行なっていると、橋本が横から入ってくる。


「あ、あのぉ…お取り込み中悪いんだけどね?そろそろ辞めないと…和人がマジで死んじゃうよ?」


「キヒッ、キヒヒヒッ…そうだ…俺には二次元がある………そこで彼女を作ればいい…」


 まるで呪われたかのように、和人は凄い事になって居た。仕方がない。


「なら空。ここは1時中断だね」

「あぁ…決着は今夜つけようぜ」

「望むところ!!」




 結局、その勝負での勝敗は付かなかった。

 だが「アレ?コレってお互いがお互いの事をこれ以上ないほど愛し合ってんだから良いんじゃね?」という結論になり、俺はいつものようにアリスとイチャイチャするのであった。

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