スポーツテストで無双

スポーツテスト。誰しもが一回はやったことがあるんじゃないだろうか。というか学校でやるな。うん。まぁ端的にいうと、それを今日やるらしく、男どもは動きやすい服装でグラウンドに集められていた。


「空、勝負しようぜ。負けた方は昼飯一週間奢りで」


ニヤニヤした和人が俺の右肩に肩を置いてそう言った。俺はポケットからあるものを取り出し、とあるアプリを起動させてスタートボタンを押す。


「1週間か…1ヶ月ならやってやらんこともないぞ?」


「お、自信満々だなぁ。じゃあ1ヶ月間、この体力測定で負けた方は昼飯奢りで」


「分かった。了解した」


俺はそう言ってから、録音ボタンをストップさせた。


「ん?何してんだよ空」


「いや、なんでもない。ただの保険だ」


「…??」


………

……


「うぉぉぉらぁっ!!!」


ブォンッ!と風を切る音が周囲に響き渡る。和人の投げたボールは天高く上がり、普通なら考えられないほど遠くに飛んでいく。


「な、78メートルです!!」


遠くの方から聞こえてくる声は、この場にいる全員に聞こえたらしく、かなり騒がしくなる。


「うぉ!?マジかよ和人のやつ」

「うっへぇ…ゴリラだゴリラ」

「そういやアイツ野球部だったもんな…うわぁ…この後とか絶対投げたくねぇ」


さまざまな言葉が飛び交うが、これと結構似たようなもんであった。和人は俺の方を見てニヤリと笑い、すれ違いざまに呟いた。


「撤回は出来ねぇぞ?負けた方が1ヶ月昼飯奢りだからな?」


「分かってるさ。約束は守る」


和人の次の番は俺だ。半径1メートルの円の中に入り、右肩をグルグルと回し、準備運動を念入りに行う。


「よし、良いぞ黒川。投げてみろ」


「うすっ…」


渡されるハンドボール。4号のサッカーボールよりも一回りも小さいそれを、強く握る。

全身の力を使って、左足を前に出して、思いっきり………ぶん投げる!!


「うっ…らぁっ!!!」


ボールは高く、高くぶっ飛んで、やがて見えない高さになった数秒後、豆粒のようなボールが落ちてくる。

その数秒後、漸く地面に落下して、計測員の人が慌ててボールの落下地点まで走る。


「ひ…102メートル…」


あっぶねぇ。ギリギリ100超えてた良かったぁ。


「……は?」

「え…は?え…?空…え?」

「ヤバイ!ゴリラだ!マジモンのゴリラがいる!」


驚く奴、信じられないといった顔を浮かべる奴。大きくはその2つに分類されるが、1人だけ顔面真っ青になっている奴がいる。

俺はそいつの肩を叩いて告げる。


「撤回は出来ねぇぞ?負けた方が1ヶ月昼飯奢りだからな…だったか?」


「は、ははは、そ、そんな約束しましたかねぇ?」

「……」


スマホを取り出して、記録した声を流してやる。


『1週間か…1ヶ月ならやってやらんこともないぞ?』

『お、自信満々だなぁ。じゃあ1ヶ月間、この体力測定で負けた方は昼飯奢りで』

『分かった。了解した』


「あ、い、いや…これはですね…」


「大丈夫だ。まだまだ挽回のチャンスはあるからさ、頑張っていこうぜ」


優しく笑みを浮かべた筈だったのに、何故か和人は「いやぁぁああああああ!!!」とグラウンド中に響く雄叫びを上げるのであった。




余談だが、和人は1ヶ月俺に飯を奢ったせいでバイト代の三分の一が消し飛んだらしい。

ご馳走様でした。

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