一線
アリスと俺は無事京都を堪能し、7時ごろにホテルに帰還した。他の奴らももう戻ってるらしく、ホテルの美味い飯を堪能した後に部屋に戻った。
「ふぅっ…美味かったなアリス」
「そうだねぇ…だけどあのステーキは中々ヘビーだった…」
2キロ弱のデカイステーキが夕飯だった。俺は問題ないが、アリスはかなり無理をして詰め込んだんじゃないだろうか。心なしか顔も少し歪んでいる様に見える。
「だな。っと…こっからの予定は……」
キャリーケースから旅のしおりを出して確認する。次の予定は入浴となるのだが、ホテルの大浴場を使うもよし部屋の浴室を使うもよしになっている。そして、そこからの予定は自由時間と就寝のみ。
「ほっほぉ…なるほどぉ。つまりやろうと思えばここで空とずっと2人っきりになれるってことですな?」
横からそれを見たアリスがニヤッと笑みを浮かべて告げる。以前の俺なら「辞めろ!俺に何をする気だ!!」と声を大にして叫んだだろうが、今の俺は全く違う反応をする。
「そうだな。アリスと俺の2人っきりってこたぁ、我慢なくイチャつけるって訳だ」
自分の欲望に忠実になった俺はそう告げるが、アリスの顔は少しだけ…ほんの少しだけ暗かった。
そして、何か勇気を振り絞るかのようにスカートの裾を両手で掴んで告げる。
「………もっと先じゃ…ダメ?」
「……は?」
それが意味する事は、反射的に頭に浮かぶ。いつもやってることのさらに先、大学に入るまで禁止としていたものであった。
「……ったく…何考えてんだよアリス。折角の旅なんだしそういうのは…」
「折角の旅だからだよ。高校最後の想い出の卒業旅行で、空と一線を越えたい」
俺の言葉に被せるように強引に押し切りそう告げる。表情は打って変わり、その顔は真剣そのものであった。
「マジで言ってんのか?」
「冗談でこんなこと言うと思う?」
いや、これを聞いたのは確かに俺が悪いな。
「……怖い?私に手を出すこと」
心の底まで見透かされるような、そんな目だったが不思議と恐怖は湧かなかった。
「怖いさ。お前に手を出せば、これまでの関係が変わっちまうんじゃないかとか、今後のこととか、色んな事を考えちまう」
曝け出した本音。そうだ。口では依存しそうだと言っても、素直に俺は、好きな女を傷つけたくないだけのただのヘタレだ。
「ぷぷっ、空ってさ、自分の事に対してなら肝座ってるけど、私の事になると途端にヘタレになるよねぇ」
シリアス展開なのに笑ったアリスに、思わず声を荒げる。
「んなっ!?テメェ!!俺は真剣に言って…」
「だから選ばせてあげる。私とするか、しないか。しないを選んでもこれからの生活にはなんにも影響は無い。ただ私は、空をずっと、ずっとずっと、愛し続けるだけ」
それは紛れもない本音だと、直感的に分からせる。
それからの関係もこじれないのなら、しない方がマシだ。
それが合理的なんだ。そして、それはまた今度にすればいい。
そうだ。勇気を振り絞って言え。今はその時じゃないんだと。
そう思い立ち、俺は口を開く。
「アリス」
「え…っ!」
めいいっぱい抱きしめて、ちょうど後ろにあったベッドにお互いが倒れこみ、俺が押し倒す様な体制になる。
「悪りぃな…色んな事考えちまったけど、やっぱ俺が1番やりたいのはアリスとおんなじみたいだわ」
やはり自分の気持ちに嘘はつけない。怖さよりも、アリスともっと愛を深めたいと言う感情の方が勝ってしまった。
「バカ…待たせすぎ」
僅かに笑みを浮かべ、俺と目を交差させる。
「悪かった。ようやく決心着いたよ」
「……するんだね。私達」
「あぁ、不満か?」
「全然。とっても、これ以上なく、嬉しいよ」
そう言って、俺とアリスは深いキスを交わした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます