卒業旅行

「くぅ…くぅ…」


京都に行く筈のバスの中で、アリスは俺に肩を預けて眠っていた。なんでも明日が楽しみすぎて寝れなかったらしい。遠足が楽しみな小学生か?


「んんっ…」


「………」


その寝顔が可愛く、頰を指で押した。マシュマロの様に柔らかいアリスの頰を堪能していると、僅かに反応が返ってくる。


「むにぃ…」


「………可愛いな…」


これは恋愛感情じゃなく、小動物に向ける様な感情だ。勿論アリスに恋愛感情を抱いてないわけじゃないけど。


「なーにしてんだよお前」


後ろからニヤニヤしながら話しかけてくる隼也。


「う、うるせぇ…良いだろ別に」


アリスが眠っている以上あまり声は出せない。小さくそう言うと、隼也は今まで以上にニヤニヤし始めた。


「いやぁ、1年前は女に全く眼中になかったお前が、今ではアリスちゃんにメロメロか。人生何があるのかわかんねぇな」


言い方は酷いが間違ってはない。山西の一件以来から二度と女を信用しない様に心にブレーキをかけていた。だけどそのブレーキをぶっ壊してくれたのがアリスだ。


「あぁ…そうだな」


俺はそう返す以外、答えが見つからなかった。


………

……


俺達が宿泊するホテルは5人一部屋の個室だった。そこに一旦荷物を預けてから観光めぐりの旅に行くのだが…。


「なんで私と空だけ同じ部屋なの!?」

「なんで俺とアリスだけ同じ部屋なんだよ!!!」


俺とアリスはそう叫んだ。部屋の都合上で2人一部屋にならなければならない組が出てくるそうなのだが、どうして俺とアリスなんだよ!!


「テヘ!伝えるの忘れちった!」


隼也はテヘペロ、と謝るが、全然可愛くもない。むしろイラッと来たが、俺の肩をがっしり掴んで問いかける。


「でも嬉しいだろ?」


「うっ…」


確かにそうだ。自分の気持ちに嘘をつける程俺は人間出来てない。同じ部屋だと聞いて嬉しいし、ありがたいと思った。だけど俺の倫理観でさっきの言葉を出した。


「なぁ?なぁ?どうなんだよ空くんよぉ!」


「うっ…………嬉しい……よ」


俺が本音を話すと、アリスの顔が真っ赤になったのを見た。それを見逃さず、隼也もアリスに問いかける。


「よぉし!アリスちゃんはどうなんだぁ?」


「嬉しいよ!!ありがとう隼也!!」


「そうだろうそうだろう〜嬉しいだろぉ俺の粋な計らい!苦労したんだぜ〜。クラスの中で2人だけが余るホテル探すの!絶対空を誘惑すんだぞ!」


「任せてよ!!空が私の誘惑に打ち勝ったことなんて殆ど無いから!!」


「うぉい!!何恥ずかしいことカミングアウトしてんだよ!!」


ドンッ、と自分の胸に手を置いて自慢げに語るアリスだが、俺も結構耐えてるよ!?じゃなきゃ俺もアリスもまだ初体験を迎えてないわけだし!!


「じゃあ空!一緒に行こ!私たちの愛の巣へ!!」


「マジで何言ってんのかなアリスさん!?」


ほらアリスがそんなこと言うから男どもがニヤニヤしてる!!あぁっもう!恥ずかしいったらありゃしねぇ!!!

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