バレンタインデーとチョコボール

「お前チョコ何個貰った?」

「一個」

「何!?誰からだ!!寄越せ殺すぞ!!」

「母さん」

「あ…うん…悪かった…」


冬休みを終えて学校が始まってから、はやくも一大イベントが起こっていた。その正体はバレンタインデー。男子は歓喜し、女子も意中の男子にチョコを渡そうと躍起になっている。

そんな中で、俺も平然としているわけじゃない。彼女であるアリスからチョコを渡されないかと当然ドキドキしていた。


「ん?」


プルルルルッ、と電話の音が響き、俺は教室を出ながら電話を取った。


「はい、もしもし…?」


『よぉ空〜!今日バレンタインだな!』


「紅蓮…」


今日1番電話したく無い奴だ。まぁ誰かも見ずに電話に出た俺も悪いけど。


『俺さぁ、今現在で本命チョコ15個だぜ〜。そっちはどうっすかねぇ?』


「……ゼロだよ…」


『は?』


そう言うといつものからかう口調が一旦止まる。


『おいおいおい〜。アリスはどうした?』


「……まだだ。なぁ紅蓮、わりとマジで心配なんだけどさ、俺アリスに嫌われてねぇよな?」


こんなふうにコイツに相談することなんて滅多に無いが、誰かに話さないとやっていけない気がした。


『はぁ?お前、なんかアリスちゃんに嫌われるようなことしたか?例えば……浮気とか』


「舐めんな。アリス以外の女を異性として見てない。つか見れない」


中学の頃に比べてだいぶ良くなったが、それでもアリス以外にはどうしても一線を置いてしまう。まぁそれはいいことなんだろうけど。


『ふむふむ…となれば…よし把握した。多分な、アリスがチョコボールかなんか渡したら、お前にすっげぇ嬉しいサプライズがあるだろうな』

「チョコボール……」


アリスからの贈り物は嬉しい。だけど、だけどチョコボールは少し寂しい気がする。


『逆にアリスちゃんのことだから私を食べて、なんてあるかもな。お前の家に大量のチョコがあったら』


残念ながらそれは見つかってないのでその線は無いだろう。


「つかなんでチョコボールで嬉しいサプライズなんだよ」


『はっはーん。お前アリスのこと分かってねぇなぁ〜』


若干イラッときたので電話を切ろうと思ったが、紅蓮は続けて話す。


『アリスは普通の女じゃねぇからな。お前が嬉しいとびっきりのサプライズを考えたまでだ』


「っ、なんだよそのサプライズって」


『俺が教えたら意味ねぇだろ〜。じゃあな〜』


「あっ!ちょっ!おい紅蓮…切りやがった」


電話を切った紅蓮。一体なんだったんだろうか。それより…俺に嬉しいサプライズとはなんなんだろうか。


………

……


「うっ…ううっ…」

「来年……はもうねぇな。大学に行ったら頑張ろうぜ」

「あぁ…ぐすんっ…」


酷い絵面だ。チョコを貰えなかった男達は教室を退室し、貰った男は歓喜しながらそれを自慢する。

かと言う俺は前者側の人間なので、とっととこの教室から退室しようとすると、くいっ、と腕の裾が引っ張られる。


「あ…そ…空…?帰ったら…時間ある?」


その正体はアリス。俺はとっさに言葉を出した。


「っ!?あるぞ!!超あるぞ!これからの予定も無い!」


決して自慢出来る事じゃないが、それを恥ずかしげもなく叫ぶ。


「良かった。じゃあまずは家に帰ろ」


「おう!」


血眼で睨んでくる非リア組の視線を浴びながら、俺とアリスは共に家に帰還した。


………

……


家に帰還した俺達だったが、アリスに連れられ俺の部屋に逸早く戻った。


「………」


帰宅したアリスは無言で自分のカバンをガサゴソと漁り、とある何かを取り出して自分の後ろに隠した。


「え、えーっと…私はさ、そ、空に喜んで欲しくてさ…この選択をしたわけですよ。だから…その…引かないでね?」


その顔は恥ずかしさや動揺と言った感情が篭っていて、本気で思っているという証拠だった。


「アリスが一生懸命やってくれたことを否定するわけないだろ」


俺はそう断言すると、アリスは自分の後ろからとあるパックを取り出した。

それは200円程度で買う事ができるチョコボール。紅蓮の予想通りのものだった。


「こ、これを…開けるじゃん?」


「ん?」


俺が開けるんじゃなくてアリスが開け、チョコボールを1つ取り出した。


「こ、これを…私の口の中に含みます」


「っ…!?まさか…」


全てを察した俺は、紅蓮が言ってたことをようやく理解する。


「は、はい…ど…どうぞ…」


口・移・し!!!!!


「あ、アリス…マジで言ってる?」


「ほ、本気だよ!!それに引かないって約束したじゃん!!」


恥ずかしさを押し殺すために叫んだアリスの顔はとても可愛らしかった、


「いや…その…いいのか?」


「い、いいの!!ほら受け取ってよ!!」


俺は差し出されたアリスの唇に触れると、中にあるチョコボールが渡される。それを口の中に収めると、アリスから離れる。


「甘…」


チョコがいつもよりかなり甘い気がする。その時俺の脳裏によぎったのはもっと食べたいという感情。


「ま、まだまだあるけど…どうする?」


「……あ…その…いただきます…」


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