不意打ち
「見て見て空!!凄い大きいよあの像!」
「はいはい。ちったぁ落ち着けよ」
目をキラキラと輝かせながら動物達を見て回るアリス。その姿は子供みたいだ。
(今日って…俺の誕生日だよな…?なんでアリスの方が楽しんでんだ?)
アリスが俺に誕生日だからと動物園のチケットを購入し、そこにデートに行くことになったのだ。最初は俺を楽しませるのが目的だった様だが…何故かアリスの方が何倍も楽しんでいた。
(まぁいいか…アリスが楽しんでくれるのはありがたいしな)
アリスが楽しんでくれるのは、自分のことの様に嬉しい。親が子供に向ける愛情みたいに。
「こんな風にデートするのってさ、遊園地以来だね」
「……そうだな」
夏休み前の遊園地。そういえばあの頃は、俺も過去のトラウマを振り切れて無くて、アリスのキスを拒んだったんだな。
「……決めた」
「何を?」
「今日、お前の不意をついてキスするから」
「ふのぁっ!?」
自分からグイグイ来るくせに俺から来たら弱いというのはアリスの弱点だな。
昔と何ら変わってないその性格に、少し笑う。
「なんだよ。そんなに驚くか?」
「ふ、ふふふふふーん!?お、大人のアリスちゃんは驚いてなんてないもんね〜!!キスするのならすればいいじよぉ?」
「語尾が変だぞアリス」
じよぉ?なんて語尾リアルで初めて聞いたな。ふつうにやったらイタイ女子だが、アリスがやると途端に可愛くなるから不思議だ。
「おっ、ヤベェぞアリス。そろそろパンダの餌やりが始まっちまう」
「なぬ!?それだけはしなければならん!!空隊員!!我に続くのだ〜!!!」
そう言ってパンダの餌やりがある場所に向かって走り出すと、俺も後を追う。
「はいはい。危ねぇから走んなよ」
………
……
…
楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう。俺らがこの動物園に来たのが朝だったというのに、もう閉園の夕方となって、俺達は帰路につく事になったのだった。
「ぶはぁっ!!楽しかったなぁ!空は?」
「俺も楽しかったよ」
短くそう告げて、アリスをとある場所に連れて行く。それを不思議に思いながらも、特に何も言わずについてきた。
「あ…」
勘付いただろう。交差点を曲がってすぐの場所にある巨大なクリスマスツリー。それを中心にして光り輝くイルミネーション。
「ふぉぉぉおおおおっ!綺麗〜!」
子供のように明かりに向かって走り、クリスマスツリーの真下に来た。
「俺1人じゃ来る勇気なかったかこれ俺も初めてだけど…すげぇな」
去年クラスメイトの彼女持ちに自慢されたのだ。『ここのイルミネーションやべぇ』って。だけどリア充の巣窟であるこの場所に一人で行くとか勇気が無かった。
だけど内心思っていた。もし俺に彼女が出来たら、ここに連れてこようと。
(まさか叶うとはな…)
全然思わなかった。中学ん時のトラウマで、女性恐怖症…というのは言い過ぎだが、それでも女を信用できなくなったのは確かだったから。
(それもこれも…全部アリスが居たから解決したんだよな…)
アリスが俺の枷を外してくれた。そんなコイツに、俺は恋をした。
「ありがとな…アリス」
「ありがとね…空」
ほぼ一緒に言葉を出した俺達は、互いに目を合わせて笑いあう。
「あ、そうだそうだ。お前にクリスマスプレゼントあったんだった」
その直後少し朝の事を思い出してしまう。アレはヤバかった。朝やってくれて本当によかった。夜にやってたら…本気で理性が爆発するとこだった。
「ん?何々〜?あ、もしかしてキスとか?へっへーん。その手には通用しな…」
俺がカバンから取り出したのは掌に収まる小さな黒い箱。それを見た瞬間、アリスの顔が固まった。
「こ…れっ…て」
アリスはその箱を少しずつ、少しずつ開く。するとそれの正体が分かる。
それは1つの指輪だ。
「まぁなんだ。いらねぇなら捨てて良い。アレだ。メルカルって奴に売るってのもアリだな。うん」
買って、渡してようやく気がついた。俺って…。
(クソ恥ずいじゃねぇか!!なんだよ!!付き合ってまだ半年程度の奴にクリスマスプレゼントで指輪とか…重…!!)
冷静に考えたらバカ重い!!め、めんどくせぇ奴だと思われねぇかなぁ…。
「空…」
「っ!?」
気がつけば…アリスの目には大粒の涙が浮かんでいた。それは頰を伝って落ちて行く。
「私…私…!!こんな…こんな幸せで良いのかな…?ずっと好きな人に好きになられて、過去の枷も壊してもらって…こんな…素敵なプレゼントまでもらって…」
「……なーんだ。俺のプレゼントが気に入らなくて泣いたんじゃねぇかと思ったぜ」
ま、嬉しい誤算という奴だな。
「なっ…!そ、そんなわけ」
「良いんだよ。お前は幸せで」
はい、今からクソ臭いセリフ言いまーす。もう流れに任せて言っちゃうか。まぁ本心だけど。
「俺は惚れた女にはとことん幸せになってもらいたいめんどくせぇ男だ。お前は、それをしたいっつう男に惚れちまったんだ。覚悟しろよ?今だろうが10年後だろうがじいさんになろうが、てめぇにはとことん幸せになってもらう。こんな男に惚れた自分を恨めしく思うんだな」
そう言って、俺は邪悪な笑みを浮かべた。アリスは泣くのを辞め、目元を腕で拭った後に、鼓舞する様に叫ぶ。
「じゃあ私は!それ以上空を幸せにしてあげる!空が愛してくれるなら私は超愛する!」
「ほぉ?言うねぇ。なら勝負しようぜ。どっちが互いを幸せに出来るか…な」
「へっへーん!望むところだ!!」
そう言って、アリスは太陽の様な満面の笑みを浮かべた。
俺はニヤリと笑ってアリスの後頭部に手を回す。そして、強引にキスをした。
「っ!?」
たったの数秒。だけどそれがあれば十分だ。ゆっくりと顔を離し、真っ赤になっているアリスと対面する。
「不意打ち成功…ってな」
「むぅっ…!!」
むくれた顔のアリスはとても可愛らしい。リスみたいだ。
しかもこれで俺がアリスを幸せにしたので一歩リードだ。
「少し油断したけど、これからはもう負けないからね?」
「はっ、点差突き放されても泣くんじゃねぇぞ?」
「誰が!空こそ泣かないでよ?」
イルミネーションの光を浴びながら、俺達は引き寄せられる様に、もう一度……キスをした。
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