アリスは空を救う
「久し振り〜。元気してた?空」
見知らぬ金髪の女性を前にして、座っていた空が立ち上がる。
「俺のことを覚えてるんだな、山西」
空は普段、私といるときはとても優しい目を向けてくれる。その愛に溢れた瞳も、私が空を好きになった要因だ。
だけど…今は違う。女の人に向けているのはまるっきりの無。まるでその辺の石ころでも眺めているかのように、なんの感情も宿っていなかった。
「まぁ一時期狙ってた男だしね〜。ってか、そんな怖い顔しないでよ〜。また中学の時みたいになりたいの?」
中学、その単語を聞いた瞬間直感した。この人だ。紅蓮が言ってた、空を狂わせた元凶の人。
「アレ?アイッチ誰々このイケメン」
「こーら。わたしにも紹介してよ〜」
横から2人の女の人が入ってくる。所謂ギャルと呼ばれる人達だ。うわぁ…ネイルしてるし…メイクすっご…アレ顔に違和感ないのかな?
「あー、これね、中学ん時の同級生で、空って言うんだ〜。つか空さ〜、そこの女の子誰?もしかして空の彼女とか?」
「あぁ」
「うっへぇ…マジ?私に暴力振るった最低男に彼女とか…」
文化祭の時に聞いた。彼女は嘘で学校中に噂を広め、空を陥れたと。だからそれが嘘なのはすぐに分かったし、単純に嘘が下手すぎる。
「大丈夫ですよ〜山西さん!私中学での本当のこと聞いてるんで、貴女の言葉なんて一ミリも信用してないですから!」
そう言って私は満面の笑みを浮かべた。
「っ…はぁ?意味わかんないんだけど」
「意味わかんないのはこっちですよ〜。会話を成立させる知能はつけてください」
10年アメリカにいた私より語彙力が低いのは流石に心配する。この先どうやって生活をしていくんだろうか。まぁこの人がこの先どうなろうがどうでもいいけど。
私は空の腕を引っ張って、3人の間を通り抜ける。
「じゃあね
そう言って、私は空を連れて店内から出て行った。あの3人はついてこない事からすると、諦めたようで良かった。
「……アリス、お前って結構毒舌なんだな」
「え?」
空が引きつった顔でそう言うと、私はさっきの事を思い出す。
「あ…あぁ…!?」
わ、私、凄いこと口走ってなかった!?ヤバイ!!空に嫌われちゃう!嫌だ!!それだけは嫌だ!!
「き、嫌いに…なった?」
「いや?寧ろ俺を助けてくれたことで好感度は爆上がりだ」
ホッ…それなら良かった。
「にしても、アリスもあんな毒吐くこともあるんだな。ビックリしたわ」
ニヤニヤしながら告げると、過去の事を思い出した私は空をぽかぽかと叩く。
「もう!忘れてってば!!あれは…頭に血が上ってただけだもん!!」
「ヘイヘイ」
そう言って、空は小さく笑った。
「まぁなんだ。ありがとな」
「っ…」
思わず泣き出しそうになる。私がやったことで、空を笑顔に出来たのだから。顔は赤く染まり、私は無意識に空に抱きついた。
「えへへへぇ、気にしなさんな!空は私が守ってあげるんだから!」
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