空さんは正義の味方なんかじゃない

ふざけるな


ふざけるな


ふざけるな!!!


「この…!!」


僕は必死にブロックをしようとする。だけど、この男、アリスと付き合ってる空という男の前では全て無力に帰す。


「よっ」


「くっ…そ!!」


まただ!距離を詰めればテクニックでかわされる。距離を開ければとんでもない豪速球でパスが回され、ダイレクトでゴールに突き刺さる。

こんなの…


「無理…だろ…」


どうやって止めれば良いんだよ…こんな怪物。


「おい空。もうちっとパス早くしてくれ。少し荒くても良い」


「遅かったか?悪りぃ。すぐ修正する」


「気にすんな。それよりさっきは済まん。コントロールずれて外れてゴール外した」


「それこそ気にすんな。ミスは誰にでもある」


「お前に言われると嫌味にしか聞こえないんだが…」


アッサリと点を決めて、小走りでコートに戻る2人の悪魔。しかも…もう点差は十分に開いてるのに…まだプレイに満足した内容だった。



僕は…いや…俺は…改めて思う。


とんでもない悪魔達に、喧嘩をふっかけてしまったと。


………

……


「こんなもんでいいか?紅蓮」


紅蓮に言われた通りもう少し早い球を出す。高校のシュートレベルのパスなのに、吸い付く様にトラップしてペナルティエリアの外からシュートモーションに入る。


「ははっ、超絶ナイスパスだわ。さっす…がっ!!」


無回転のブレ球は、キーパーが止めようとした場所をすり抜けてゴールに入る。よし、これで点差は14対0、圧倒的ですなぁ。


「つかよぉ、お前のオールコートからシュート打てるってかなりヤベェよな。俺アレ出来ねぇ。くっそ…このまま点数負けんのかよ…」


俺が最初にやった行動は本来、ゴールキックで行うものだ。

つまり100メートル前後のコートを横断してゴールにぶっ放す訳だから、実質全ての場所からゴールを狙える。分かりやすくいうなら黒〇の〇スケの緑〇をサッカー版にした様なもんだ。


「はぁ…はぁ…ふざけんなよアイツら…点数何点稼げるかで勝負してやがる…」


「少しは手加減しろよ…はぁ…はぁ…もう…がっつり点とっただろ…」


という声が後ろから聞こえるけど…こういうのは徹底的にやるのが俺の主義だ。残念ながら俺は慈悲をかける王道主人公みたいなキャラじゃ無い。

自分の大切なものに手を出す奴らが居れば、徹底的に排除するのが俺のやり方だ。


和解


これは俺が1番嫌いな言葉だ。だから和解なんてものはそもそも選択肢のうちに入らない。やるなら徹底的に、もう二度と俺に関わらないようにするために、プライドを砕き、精神を破壊する。それがアイツの得意分野なら簡単だ。圧倒的な才能を見せつけてやるだけで、それは成立する。

紅蓮は、それが出来るから呼んだ。


「あ?どうしたよ空」


いつのまにか紅蓮に目線がいっていたようで、ウザがるように目を向ける。


「いや…なんでもない。もっと点数とるぞ。後10分もある」


「がってん。っしゃあ!!点取るぞぉおお!!」


紅蓮の雄叫びが周囲に響く。


………

……


観客が観客を呼び、Bコート周辺には沢山の人が集まっていた。西園寺達にとっては、大衆の前で醜態を晒しているのだから公開処刑に等しい。しかも点差は20対0。絶望的な点差だ。向こうの選手達は諦めかけているが、それでも点を取るのを辞めない。


「…はぁ…はぁ…はぁ…頼みが…ある」


「なんだよ」


西園寺は媚びる様な目でボールをトラップした俺を見る。


「一点だけで良い…決めさせてくれ」


「………」


「頼む……もう十分決めただろ…もうこんなことしないと約束する……だから頼む」


プライドは粉々に。精神は後一歩で崩れ落ちる寸前…と言ったところだろうか。人の心を壊せば、俺は中学時代のアイツらと同類になってしまう。


「知るか」


アイツらと同類になることなんてどうでもいい。俺は俺の守りたいものだけを守れれば、それだけで満足だ。

その言葉とともに、俺は西園寺を抜き去り、ちょうど空いたコースにボールを撃ち抜いてゴールする。


「なん…で…」


西園寺のそんな声が耳に聞こえるが、特に興味も持たずに自分のコートに帰った。

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