空君はやっぱりチートなのです
「待って、待って…凄い…ヤバイ…元々惚れてるけどもっと惚れそう…」
アリスがサッカー用の服やストッキングなどを身につけた俺を見てそう言う。サッカー用のものを一式捨てなかったのは、やっぱりそれに未練があったからなんだろうと思う。まぁスパイクとかは足のサイズが合わなくて交換したけど。
「そんな服が一つ変わった程度で変わるか?」
少し大袈裟なんじゃないか?と思うが、アリスが嘘をついているようにも思えない。
「空は私がメイド服着てても同じこと言う?」
「俺が悪かったです」
成る程超分かりやすい。そういえば文化祭でもアリスがメイド服着てた時は本気でやばかったのを覚えている。
「うむ、宜しい!」
そう言った途端、メールが届く。 それを開くと、紅蓮から写真が一枚送られていた。
それを開いてみると……。
「うっわ…マジですかい…」
「ん?なぬ!?な、なにこれ!?」
写真に写っていたのは、ゴリッゴリの黒人選手の中に紛れている西園寺。5人居る事から、恐らく今日の対戦相手がこいつらなんだろう。
「こ、これって…凄いマズくない?こ、こっちのメンバーって?」
「俺と紅蓮。そんで適当に参加してくれる3人を集めるそうだ。人数合わせだからスキルはあんま期待しないほうが良い」
いや待ってくれ。これには理由があるんだ。確かに最初は隼也とかアキラとか誘おうと思ったんだよ。だけど…それだと芸が無い。俺1人なら流石に1失点もしないのは無理だ。だけど…俺と同等クラスに強い紅蓮が一緒ならイケるし、5人で叩き潰すより2人で叩き潰したほうがより精神的にダメージ行くだろ?
「…い、痛めつけられたりとか…しないよね?」
普通自分が懸賞となってるゲームで俺のこと心配するか?と思うが、アリス助けるために死にかけた俺が言うのもダメだと思い引っ込める。
「まぁ、ボクシングとかなら勝ち目ねぇよ。相手は超絶ヘビー級っぽいし。でもこれはサッカー、相手は装備無しだが、俺らは初期の時点で残弾無限のロケラン持ってるようなもんだよ」
つまり俺らの専売特許って訳だ。デカイエナメルバッグを持って、部屋のドアノブを回す。
「んじゃ、行きますか」
………
……
…
「うわぁ…」
「うわぁ…」
俺とアリスの声が重なる。サッカーコートの前。真紅のユニフォームを身に纏い、10番の番号を背負っている赤髪野郎は、何人もの女子に囲まれながらそれぞれにラインを交換していっていた。
「ね、ねぇ空…」
「気にするな。アイツはアレがデフォだ」
それより早くアップ取らねぇといけない。
使い古されたサッカーボールを持って、グラウンドの中に入ると、その外から紅蓮が声を荒げた。
「おあ!?空テメェ!!来たなら連絡寄越しやがれ!つか、お前なんでユニじゃねぇんだよ!!」
中学時代のユニは…アレだ。着るのに抵抗があったから辞めた。今着てるのは練習用の服だ。
「どうせビブス着るから良いだろ?」
「……そうだな。本気出すんなら文句はねぇわ」
そう言って女子を振り切り、紅蓮もコートの中に入る。
「それよりお前、アレやるのか?」
「まぁ…この2週間でまぁまぁブランク取れたし出来るか…やる」
中学時代の俺の特別武器。中学時代はガッツリと対策取られて使えなかったが、アレから結構時間も経ってるから使えるだろう。
奇襲を仕掛けるにはアレが1番良いし。
『只今より、〇〇市、球技大会・サッカー部門を行います。選手のみなさんは、指示に従って移動を開始してください』
そのアナウンスが耳に入る。俺らのチームはABCとあるコートの中で、Bコート。チームが5人だからか、小学生並みのコートの広さだ。まぁゴールは高校でも使われてる奴だけど。
「そ、空!!」
「ん?」
「が、頑張って…その…私が言うのもアレだけどさ…空には…純粋に楽しんでもらいたいなぁ…なんて」
ウチの彼女が可愛すぎる。
よし、誰にもやらん。今回の勝負絶対に勝つ。
「任せとけアリス。10点差つけてやる」
そう言って、俺はピッチに立った。
………
……
…
「やぁ、来たんだね」
試合前の挨拶にて、チームキャプテンである西園寺が向かい合う。その横にはズラリと黒人選手が立ち並び、とんでもない威圧感を出す。
「西園寺…お前幾ら勝ちたいからってやることゲスすぎだろ」
「勝つためには自分の使えることはなんだってやるさ。だって勝てば、アリスが僕のものになるんだから」
「そうだな。勝てばだけどな」
だが、戦力になりそうなのは俺と紅蓮の2人だけ。そんなのは西園寺も分かっているだろう。だって紅蓮が集めて来た3人はマジな数合わせだし。
「じゃあ始めようか」
「あぁ」
ボールかコートを決めるコイントスでは、俺がボールを選択出来た。コートはそのままで、それぞれが配置についた。
ポジションは当然俺と紅蓮のツートップ。まぁ分かりやすく言うなら攻撃特化の陣営って訳だ。
「初っ端からボール俺ら…っておぉ…こりゃあ…」
「すんげぇ舐められてんな」
敵さんも配置についたと思えば、俺と紅蓮の真正面を思いっきり開いている。どうぞ攻めてくださいと言ってるようなもんだ。
だけど…こりゃ都合が良いな。
『では、選手それぞれ、ブザーの音で試合を始めてください』
ブー!!とブザーの音が鳴り響き、紅蓮からボールが贈られる。
「んじゃ、始めますか」
エンジンをフルスロットル。トップギアに引き上げ、全身の力を振り絞ってボールを全力で蹴る。
ドンッ!!!大砲をぶっ放したような音がコート中に響く。ボールは風切り音と共に地面に平行に飛んでいく。
「はぁ!?」
「やべぇ!!こいつ直接狙いやがった!」
気づいた時にはもう遅い。もう既にキーパーとの一対一だ。
「止めろよガンズ!!」
「分かってるよ!!」
分かりやすくいうなら俺が狙ったのは左斜め上。そこに些細なブレも無く飛んで行く。
キーパーはそれを止めようと両手を出す。
「え…」
だがボールの威力はそれをあっさりと突き破り、ゴールに突き刺さった。
「まず一点だ」
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