アリスと西園寺

「ぐへへへへへぇ…空の寝顔はいつ見ても可愛いなぁ」


私秘蔵の写真集コレクションを女子トイレで見る。これが私が学校で空を我慢するための唯一の手段だった。

まぁ昨日は2人で本当にギリギリなイチャイチャをしたのでだいぶ満足したけど、それをやった後だと…ねぇ?余計興奮しちゃっても…ねぇ?


「おっと…時間が…」


マズイマズイ。カメラをポケットに入れて個室を出て、手を洗って出て行くと、トイレの近くで西園寺君が壁に背中を預けて居た。


「やっ、アリス」


「ど、どうも…どうしてここに?」


トイレの前で待ち伏せって、かなりのイケメンじゃないと変態扱いされそうだけど…まぁ西園寺君は顔は良いからそこは変態扱いされないんだろうけど。


「君を待ってた」


「ストーカーか何か?」


トイレの前で待つのはストーカーと間違われても仕方ないと思う。

まぁ空ならウェルカムなんだけどね。


「だってこうしないと、お邪魔虫が邪魔にしに来るでしょ?」


お邪魔虫、というのがなんなのかはすぐに予想がつく。空の事だ。私と空の間でもトイレで待つことなんてしないし。


「で、なんなの?もう授業始まるけ…」


顔の横に手が置かれ、私の後ろの壁を叩く。所謂壁ドンという奴だ。

あ、待って。今度空にやってもらおうリストに記入しとかなきゃ。


「実際さ、何処が不満なワケ?イケメンかどうかで言ったら俺の方が上だろ?」


「西園寺君ってさ、言ってる事は間違ってないけど私からしたらイメージ最悪だよ」


アメリカに居た頃の私ならこんな事言わなかった。言う度胸もなかっただろう。


「は?」


「顔のレベルって言われても、私空を顔で決めたワケじゃないから分からないし、多分そこは興味ない」


私と空が付き合って丁度2ヶ月だけど、顔で付き合ったのならもう別れてる。だけど愛は冷めるどころか、次々と増していってる。以前は空とキスしたいなぁ…って思うくらいだったけど、今は空を舐め回したいと思うくらいには。


「だから悪いけど、西園寺君の告白には答えられないよ」


「ふーん…そんなに好きなんだ。アイツの事」


「うん」


空は私にとっての麻薬だ。一度使えば抜け出せなくなり、もうそれ無しでは生きていけなくなる。いや、それよりも依存性が高いものだった。


「……半年前、俺とお前はアメリカで会ってる」


「え…?」


「そん時、俺はモデルをやってた。自分でも調子に乗ってた時期で、なんでも手に入ると思ってたんだ。特に女は。女なんて、金と顔があれば勝手についてきた空っぽな奴らだったから。だけど…お前は違ってた」


頭の中をフル回転させて当時のことを思い出そうとする。

あ…思い出せた。確か私が学校を休んでた頃だ。気分転換に外を歩こうとたまたま歩いてたら声をかけられた。


「お前は唯一俺に引っかからなかった女だったから、欲しくなった」


「西園寺君ってさ、女をコレクションしたいの?」


数々の女を誑かしてきたけど、その中で私が手に入らなかったからそれが手に入るまで諦めない。コレクションという単語が1番似合う。


「まぁ、そんなところかな。だから君には特別、僕の彼女になる権利を上げる」


「いらない。私空一筋だから、他の人には興味ないの。だから別の人を選んで?」


「それは困るな。俺のターゲットはすでにお」


「そこまでだ転校生。なに人の彼女をナンパしてくれてんだ」


現れた空の声に、西園寺君の声が掻き消される。鋭い眼光が空に向けられると同時に、空も怖い目を西園寺君に向ける。


「もしかしてアリスが僕に取られるのが心配なの?それってアリスのこと信頼してないって訳?」


「話飛躍しすぎだろ。お前人の話まともに聞かないだろ」


「聞かないよ。僕の言うことにみんな従うからね」


2人が鋭い目つきで火花を散らし合うと、西園寺君が人差し指を立てる。


「1つ、ゲームをしようか」


「は?」


「今度この街で開催されるスポーツ大会、君が好きなスポーツを選ぶといい。そこの勝敗で僕と君の決着をつけよう」


「そうか。じゃあサッカーで」


空が即決すると、私は察してしまう。あ、あのぉその…流石に空にサッカーで戦うのは…辞めた方が…。


「そうか。言ってしまった以上、もう前言撤回はできないよ?」


西園寺君は空とのすれ違いざまにそう言葉を呟く。


「こっちのセリフだバーカ」


空がそう返した後、西園寺君は教室の方に消えていった。

その際、空は普段は滅多に弄らないスマホを弄る。


「こ、この街にき、球技大会…なんてあったんだね。あはは」


「まぁな。サッカー、野球、バスケとかが行われてて、トーナメント形式で行われる。俺が参加するサッカーだが、そもそもこのイベントで11人も集められないからチームは5人だ」


淡々とそれを説明していく空は、スマホを耳に当てた。プルルルルッ、と着信が鳴るから電話をかけているんだろうけど…誰に?


「よう紅蓮。久し振り。来週の日曜なんだけどよ、少し時間あるか?」


あ…これやばいやつだ。

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