隠してて…ごめん

「………」


文化祭も無事終わった。だが俺は、あの時聞いた言葉を忘れてない。だけど何より許せなかったのは、そんな大事なことを、アリスが何も口に出してない事だった。


「ん?どうしたの空。もう寝るよ?」


薄暗いライトだけが部屋を照らし、既にベットにはアリスの姿がある。沢山いろんなことがあった文化祭だが、俺はそんな疲労感などどうでもいいくらいそれが気になって仕方がなかった。


「なぁアリス…お前、俺に隠してることないか?」


「え…え?隠してること…って?」


アリスは訳が分からないといったふうな顔を作る。


「正直こんな束縛はしたくねぇ。秘密は誰にだってあるからな。だけどこれだけは聞いときたかった」


「……隠してる…隠してる…?んんっ?あっ…もしかしてさっき電話で話してたの…聞いちゃった?」


「……あぁ」


聞きたかったことが聞けた。その話を今からする以上、もう後戻りは出来ない。


「そっかぁ…聞いちゃったかぁ…」


「ふざけんな…!そんなあっさり…なんでアメリカに帰るんだよ!お前にとってあそこは嫌な思い出しかねぇだろ!!」


いや違う…俺は今…話を逸らしている。本当は俺から離れていって欲しくなかっただけだ。だけど恥ずかしさからか、その声が出た。


「ちょっ!ちょっちょっ!!帰るっていっても、少しの間だけだから!!!」


「……は?」


思わず変な声を上げてしまった。


「えぇっとね…両親が…アメリカに帰ってきて〜って言っててさ…そういえば帰ってなかったから今度のシルバーウィーク、久し振りに帰ろっかなって」


「…なっ…な…」


顔がどんどんと赤くなっていく。だって俺……それじゃ…だだ…勘違いしてただけじゃねぇか。


「あぁくそぉっ!!なんだよ!!穴があったら入りてぇ…くそっ…早とちり!!」


「いやぁ、最初聞いた時ビックリしたよ。もしかしたら私がスマホに保存してる空写真集がバレたのかと思ったよ」


その間、ほんの少し沈黙が生まれる。墓穴を掘ったと理解したアリスは、「あ…」と声を出した。


「アリス、スマホ貸してくれ」


「だ、ダメだよ!乙女のスマホ勝手に見るなんて!!」


スマホを大事そうに抱えようとするが、俺の方が初動が早い。即座に奪い取って写真フォルダを開く。


「ぁぁあああダメェ!!」


「ぉ…おぉ…こりゃすげぇ…」


フォルダの中には見事に俺の写真でいっぱいだった。風呂上がりで少し湿った髪をしている俺に、運動した後の汗をかいている俺。そして寝顔。

しかも日付を見てみたら8月の26日、マジで最近に撮影されてる。


「……アリス」


「ひゃい!!」


ベットで正座をして背筋を正すアリスの目を、ジトッ、と見つめる。


「こういう写真使って、なにかしたりしてないだろうな?」


「……そ、そのぉ…空がお風呂行ってる時とかは…それをオカズに…」


「あぁもう分かったからそれ以上言うな恥ずかしい!!」


その言葉の意味がわからぬほど、俺はバカじゃない。


「なぬ!?それを言うなら空だってこの前幼馴染もののえっちぃ本持ってたじゃん!!」


「も、もう捨てたわ!!」


流石にもう一度バレるのはマジで恥ずかしい為、家の中にあったその類の奴は全部捨てた。


「あっ!良いこと思いついた!!私のえっちぃ写真を空のスマホで撮ったげる!空はそれをオカズにして」


「しねぇよバカ!!そもそもお前が来てからその類してねぇんだよ!!」


「ぇぇ!?健全な男子高校生ならするんじゃないの!?空って…もしかして…病気?あ、大丈夫だよ!?私はどんな空でも愛し続けるから!」


もう話が飛躍しすぎてついていけないんだが…。


「取り敢えず、その話は一旦置いとけ!!ってか、アメリカに帰るってなったら普通に寂しくなるな…」


少し悲しいが、家族との時間も大切だろう。受け入れよう。


「なら空も来る?というか、私空と1日以上離れてたら寂しくて死んじゃうよ?割とガチで」


普通なら冗談だと言いそうだが、マジでありそうなので否定出来ない。


「お、おう…わかった。俺も一緒に行くよ。アメリカ」


こうして、俺の初めてのアメリカ旅行が幕を開けたのだった。

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