空の枷

「優勝者の空選手には、文化祭買い物券2000円分プレゼント〜」


パチパチパチと拍手が送られながら、それを受け取った後、解散となった瞬間に台から降りて、アリスの下まで一直線に走り抜ける。


「空!!おめで…」


「悪いアリス!話は後だ!!今は逃げるぞ!走…」


その瞬間、手首を掴まれて後ろに引き戻される。


「よぉ空。久し振りだな?」


「てんめ…」


「お前が消えてからマジでつまんなかったんだぜ?俺と互角にやり合えるのはお前しか居なかったからな。ま、そのお陰でよりモテたけどな」


「ひ、人違いじゃないですかね?」


「あんなボールテクニック出来るの全国で10人も居ねぇよ。それを連続で行えるのは日本じゃ俺かお前ぐらいだけだ」


もう言い訳は出来ないなら、とっとと諦めてしまった方が吉だ。後ろを振り向くと、地毛の真っ赤に染まった髪と、碧眼が交差する。アメリカと日本のハーフで、身長は俺と同じ180センチ程のこの男。


「久し振りだな。空」


「久し振りだな紅蓮…出来れば二度と逢いたくなかったがな」


大阪の、いや、高校サッカーの中で今一番注目を浴び、日本代表確定の選手、大阪の皇王学園の10番、四宮紅蓮。アキラの宿敵だ。


「ふっ、残念だったな。場所変えようぜ。ここじゃ少し目立つからな」


「あぁ」


………

……


誰も人が来ない校舎裏にて、俺は壁にもたれかかり、紅蓮と対面。そしてその横に居るアリスがオロオロしている。


「マジで可愛いなこの女の子」


「アリスに手ェ出したら殺すぞ」


「取らねぇよ。そもそもアリスって子はお前に死ぬほど惚れてるし、横からぶん取るなんて事はしねぇ主義だ」


中学の頃から女を取っ替え引っ替えする紅蓮だが、モラルはきっちり守ってるからタチが悪い。


「それなら良いけど…」


「それより、これから話すのはお前の過去の話だ。良いのか?このアリスって子巻き添えにして」


「どうせいつか知られるんだから良い。それにアリスの過去は知ってるのに、俺の過去を明かさないのは不公平だろ」


そう結論づけると、紅蓮は「ふぅ…」と息を吐く。


「アリス、お前には俺の過去を話してなかったな。結論から言うぞ」


「………分かった」


覚悟を決めた様な目で俺を見るアリスに、特に何も思わずに告げる。


「冤罪くらった。以上」


「え…?」


何処か拍子抜けした様な表情で俺を見るアリス。そりゃそうだ。アリスの暗い過去に比べたらこんなのカスみたいなもんだ。


「おい空、カッコつけてねぇで具体的に話せ。あれの所為でテメェの推薦が全部消えた事。学校で最底辺になったことは知ってんだぞ」


「…それ…ホント?」


「まぁ、そうだな。でも頭は悪くなかったから普通にこの学校一般入試で受けて受かったから良い」


良いさ、そう言おうとした瞬間、紅蓮が壁に拳を突き立てた。


「何処が良いんだよ…。あの…お前がフッた女が暴行の冤罪擦りつけたんだぞ!?アイツのこと許せんのかよ!?」


俺は中学時代、自慢じゃないがかなりモテていた。その理由が、帝王中学というサッカーの名門中の名門の中でエースナンバーを背負っていた事だった。プロ入り確実、そのステータスに群がって、内面を見ようとしない外面ばっかのクソ女。

その中の1人をフッたら、翌日、俺に暴力を振るわれたと嘘を流した。全く見に覚えのない事だが、面白がってそれを拡散され、嘘は時間を経て現実のものだと勘違いされた。そして…推薦は全取り消し。意識してなかったが、かなり上層だと思っていたスクールカーストは底辺の中のさらに底辺に叩き落とされた。

俺がこうなったのはサッカープロ入り確実のステータスがあったから。

ならそんなもん捨てて、高校生活を送ってやろう。そしてもう二度と…女を信頼しないと…心に決めていた。


「許せる許せないなんかもうどうでも良い。俺はあの女の顔すら覚えてないからな」


中学時代のことなんて、もう殆ど忘れた。それは強がりでもなんでもない。本気で覚えてない。

もうアイツの名前すら覚えてないから、許す許さないという概念すらない。


「なんで…アレを忘れられる…」


「コイツが忘れさせてくれた」


アリスを自分のそばまで引っ張って、肩をぽん、と叩く。


「信じられるか?あの事件が起こってから、俺はずっと女を信頼しない様にしてた。だけど…コイツはそんなん飛び越えて俺を好きにさせた。コイツのためなら、命を張れるってくらいにな」


紅蓮は拳を引いて、小さく笑った。


「ったく、ちったぁ慰めてやろうかと思ってけど…なんだよ…スッカリ元気になってんじゃねぇか」


「残念だったな」


「しっかし…お前を惚れさせるって、その女相当すげぇな?顔もスタイルも良いのに性格まで良いとか…マジで完璧じゃん。欲しくなってくるな…」


アリスのことをじーっと見つめる紅蓮だったが、それに興味を示さずに俺に抱きつく。


「アリス?」


「空はずっと私が守るから!!絶対裏切らないからね!!いつでもどこでも甘えて良いからね!」


「お。おう…?ありがとう…」


「良いの!!ずっと空に守られてきたから、今度は私の番なの!!」


まさか、大阪のイケメン皇帝とも呼ばれた紅蓮を前にして俺が優先とは…中学の頃に比べたら考えられないな。


「ありがとな…アリス」

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