演劇
「ねぇ…黒川君……良いでしょ?私と付き合ってよ」
夕焼けを背景にして、黒板を叩いて俺に壁ドンする様な形で、俺に迫り寄ってくるクラスメイト…神崎恵。小柄で可愛らしい少女だ。
「…返事は少しだけ待ってくれ。ちゃんと考えて答えを出したい」
「………分かった…」
そう言って、神崎さんが教室の外に出て、扉を閉めた瞬間だった。
「はーいカットー!!」
「ぶはぁっ!!はぁ…はぁ…役者ってマジで疲れるな…」
俺らが出す文化祭の出し物は『演劇』クラス全体で考えたまぁテンプレの恋愛系のストーリーだった。2人の少女から好意を寄せられる男が、どちらを選択するのかというストーリーだった。
そして、神崎さんとは別に居るもう1人のヒロインが……。
「……うううっ」
呻き声の様なものを上げながら黒いオーラをガンガン出してるアリスだった。
「というか隼也!なんで空が主人公なの!?私1人が慕うなら構わない!寧ろウェルカムなのになんでこんなストーリーなの!?私嫉妬で凄いことになるよ!?」
「あー…アリスちゃん。これは勘弁してくれ」
「つか隼也、俺もまだ主人公に抜擢された理由説明されてないぞ」
このクラスでもカップルは結構な数存在する。その中でなんで俺がこんな形でやらなければならない。
「いやぁ、最初はさ、アキラにしようと思ったんだけどさ、あんな性格だから役者は無理なんだよ…」
「あぁ…そりゃ納得だ」
「後リアリティは結構出したいから、どうせならこの付き合ってる限定のカップルが良いだろ?その中で1番映えが良いのがお前らだったからだよ」
「は?」
「ん?」
俺もアリスもよく分からない。映えという意味は理解しているが、何故俺らだと映えがいいのか…。
「「あ、そういうことか」」
ほぼ同時に俺とアリスが結論付ける。
「アリスが可愛すぎるから映えがいいのか」
「空がイケメンすぎるから映えがいいんだね」
ん?いやちょっと待て。俺は違うだろ。
「アリス?何言ってんだ?お前の顔はモデルよりも上だから映えが良いんだろ。まぁ最も俺はそれでお前と付き合ってるんじゃ無いがな」
「それを言うなら空こそ何言ってるの?自覚ないようだからこの際言うけど空って結構イケメンだからね?特にサッカーしてる時の顔なんか女だったらすぐに惚れちゃうレベルで私心配なんだけど?」
「安心しろ。俺はアリス一筋だ」
「私も空一筋だよ!」
「あのぉ…ナチュラルにイチャつくの辞めてもらって良いですか?」
隼也が俺らの会話に申し訳なさそうに割って入る。
「別にイチャついては無いだろ?」
「そうそう。ただお互いに良いところ話し合ってただけだもんね〜」
「ダメだこのバカップル。イチャつきすぎて限度が分かんなくなってる…」
常識はずれのアリスと一緒にいたから感覚が麻痺してるのかもしれない。恐らく俺らがやったことはヤバイ事なんだろう。
「なんか…悪いな」
「もう良いです…諦めてるから。ふんっ!じゃあ次のステップだ!!アリスちゃんはこれに着替えてね!」
隼也が段ボールの中から出したのは、ゴリッゴリのメイド服。まさか…これを着せるのか?
「隼也…お前これ…」
「メイド喫茶が却下されたから脚本の中にこれをアリスちゃんのメイドシーンを混ぜておいたのだ!!どうだぁ空。粋な計らいだろ?」
「……よくやった。今度飯奢るわ」
「なんのなんの。気にするでないぞ」
………
……
…
「んんっ…なんか…恥ずかしいね…」
メイド服に身を包んだアリスが教室に戻ると、顔を赤らめながら俺に目を向ける。クラスメイトはそれに歓声を上げ、隼也は俺の横腹を突っついてくる。
「アリス……」
言葉が出なかった。そして辛うじて出た言葉が。
「ど、どうかな?似合ってる?」
アリスの肩を掴み、真剣な眼差しを向ける。
「結婚しよう」
「喜んでお受けするよ!結婚式はいつにする?」
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