乱入者

正直に言おう。アレ以来、かなり歯止めが効かなくなった。

いや、だって…ねぇ?

好きな女がデレッデレに懐いてくるんですよ?そんな状況で歯止めが効くわけない。

今だって、病室でアリスが来るのを心待ちにしてるんだから。


「あぁっもう!!なんっだよこれ!!」


気がつけばアリスのことが頭が一杯になって、鼓動がうるさくて煩くて仕方がない。

必至に毛布をかぶって頭から払おうとしても、それを余計に意識して頭から離れない。


「くそぉっ…」


コンコンコン、と部屋がノックされると、答える間も無くとある人物が入ってくる。それを確認するために目を向けると、アリスがひょっこりと扉から顔を出していた。


「おはよ〜、空」


「っ、おう、アリスか」


「えへへ、今日も来ちゃった」


そう言って、アリスは笑顔を浮かべる。


「お…おう…」


すると、胸の近くに手を置いて、頰を赤らめながら言った。


「その…今日も…いいかな?」


「おう…」


アリスは俺にどんどんと近づいて、顔を近づける。そして、俺がアリスの唇に口をつける。10秒間そうした後、口を離す。


「へへっ、幸せだなぁ」


「……俺もだ」


いつもの俺なら絶対こんなこと言わない。だけど言ってしまうのは、俺が変わったということなんだろうか。

アリスは椅子を近くに持ってきて、俺の横腹に抱きついて腕を回す。


「むふふふぅっ、やっぱり空は天国だぁ」


「……」


「ひょあっ!?」


抱きしめる腕を外してアリスの体制を崩し、真正面から抱きしめる。アリスの胸の感触が俺の胸にあたり、お互いの鼓動の音が聞こえる。


「そそそそそそ、そそ、空!?」


「アリス」


「ひゃい!」


まるで怯えた小動物のような返事を返してくれる。


「そんな無防備に抱きつくと俺が我慢出来なくなる。だから学校が始まったら辞めてくれ。代わりに家でならお前の好きな様にしてくれて構わない」


それが俺に出来る最大限の譲歩だ。我慢するのは慣れてる俺だが、アリスから来られれば我慢できる自信が無い。だから家でしか無理だ。


「す、好きなように?」


「あぁ、お前が望むことなんでもだ。だけど、俺も家じゃ爆発すると思うから、そこらへんは注意してくれ」


まぁようするに、限度をわきまえろということだ。だけどアリスが限度なんて知るはずもないから、あんま期待は出来ないけど。


「わ、わわ、分かった…けど…今は?」


「今は…ノックがねぇ限り部屋に入ってくるやつはいねぇだろ。だから存分って訳にはいかねぇけど…」


「充分だよ」


アリスは俺の頰にキスをする。


「空ぁ…空ぁ…」


抱きしめる力をより強めるアリス。そんなアリスを可愛らしく思い、俺もアリスを堪能する。


「好きだ…アリス」


そう言った瞬間、ノックをせずに病室の扉が開かれる。そこに目を向けると、隼也と目があった。


「あ…あ…わ、悪りぃ…邪魔したな」


隼也は何事もなかったかのように扉を閉めて部屋を後にするが、許せる筈は無い。俺はまだ走るなと親父に言われてるから仕方ないが、アリスはこれでも女子の中でトップの運動神経を誇ってる。ってなわけで。


「アリス、レッツゴー」


「イエッサー」


アリスを投入すると、数秒後。


『ちょっ、何々!?ごめんってアリスちゃん!俺が悪かったから!次からはノックします!!ノックしますからぁあああああああ!!』


という断末魔が聞こえてきた。俺が元凶なんだろうが、供養するために手を合わせて置いた。隼也よ、安らかに眠れ。


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