恋の自覚
「肝試し?」
俺はアリスにその話を聞く。そういえばそんなことがパンフレットに載っていたような載っていなかったような…。
「そそ!男女の友情を深める肝試し大会は、男女ペアで行われるの。そのペアはくじ引きで行われるんだけど、男女が相互でオッケーすればペアになれるんだって。だから…お願いします!!ペアになってください!!」
まるで付き合ってください!と言うように頭を下げて手を向ける。別にそのくらいなら受けても良いと、その手を受け取る。
「おう。よろしく頼むわ」
「やったー!!!空と肝試しだ〜!!」
「時間は…8時か」
しおりを見てみると、夕食が終わってすぐの時間帯に行われるらしい。時計を見てみると既に5時を回っていた。
「あと少しか」
「むふふふぅ、楽しみだねぇ〜」
………
……
…
夕食も特に何事もなく終了し、いよいよ肝試しの時間帯となる。学生達は興奮しながら自分のクジを引く奴ら、懐中電灯を持って先に行く男女、それを見送る複数の人で賑わう。
俺とアリスの場合は待機組となっている。
「これ…肝試しか?」
もはやお祭り騒ぎの状態だから少し困惑していた。まぁ俺も、楽しみにしていないと言われれば嘘になるんだが。
「おーいお前らぁ!!」
「ん?隼也って…なんでアキラ引きずってんだ?」
現れたのは隼也と、彼女である椎名。(椎名で良いと本人から言われた)そしてとてつもなく不貞腐れているアキラの姿。
「こいつが『肝試しなんかくだらねぇ。俺ぁ筋トレしとく』とか抜かすからさぁ、俺と一対一するって事でどうにか連れ出した。だけどダメだわ。お前が餌じゃ無いとこんなもんだ」
確かにアキラは抵抗はしていないが顔は明らかにめんどくさそうと言った顔をしている。隼也もサッカーでは全国レベルに強い選手なのに、そんな不満があるもんなのかね?
「隼也なんか部活でいつもタイマン張ってるからつまんねぇんだよ。攻撃パターンも一緒だから止めやすいしな。空ミテェに変幻自在のドリブルしてみたら考えてやんよ」
「あのさ、無茶言わないでくれる?俺人間だから空に出来る事出来るわけないじゃん」
「おいこら待て。なんで俺が人間じゃねぇミテェになってんだ」
とまぁ、会話に花を咲かせながら俺らの順番が来るまで待っていた。
〜〜〜
俺らの順番が回ってきて、懐中電灯を灯してアリスと共に薄暗い道を歩く。
「………」
「空?」
「っ、な、なんだ?」
ビクンッ!と体が跳ねてしまったことを誤魔化して問いかける。
「もしかして…暗いの苦手?」
「…まぁ…お前と離れた後小2くらいの時に山で迷った事があってさ…」
1人で真っ黒な世界に取り残されたのは今でも覚えている。それ以来俺は暗所恐怖症、とは言いづらいが、暗い場所が少し苦手になってしまっている。
「ふふっ、じゃあその恐怖をかき消してあげるね〜」
そう言っていつものようにアリスは俺に抱きついた。その時、無意識のうちに俺の足は止まった。
「………なぁアリス」
不思議に思ったんだろう、アリスも俺から離れて首を傾げる。
「何?」
「恋って…どんな感じだ?」
唐突に、それを聞いてしまった。それを言ってしまった以上もう戻れない。俺は、覚悟していたことを言おうと思う。
「……そうだねぇ…私の場合、その人の事しか考えられなくなって、近くにいると心がときめいて…抱きつけば心臓が爆発するんじゃ無いかってぐらい苦しくなる。だけど…それがとっても温かくて、幸せな気分になれる」
アリスは胸に手を置いて、小さく笑みを作った。
「……中学時代さ、ある事がキッカケで女が大っ嫌いになったんだ。今はだいぶマシになったが、それでも、お前の好意を素直に受け取れてない自分が居る」
コイツは本気で俺のことを好きでいてくれる。その気持ちはスゲェ嬉しい。だけど、付き合うことは出来ない。だって心の底から信用出来なかったから。
「だけど最近さ、お前が隣に居ると、心が安らいで、少し胸が高鳴る事がある」
考えてみれば簡単な事だった。遊園地に行った時にも、俺は葛藤してキスを拒んだ。嫌なら直ぐに結論が出る筈なのに。
一緒に風呂に入った時でも、好きでもない女に欲情したりしない。
恐らくだけど…この感情は。
「俺は…お前に恋してる」
刹那、ゴグンッ!!という鈍い音が鳴り響き、意識は暗転した。
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