最悪と絶望と……

「いっ…いやああああああああぁあぁああああああああ!!!」


私は、声にならないくらいの悲鳴で叫んだ。迫り来る絶望と恐怖、愛おしい人が、自分に恋してると言ってくれた。その瞬間に…空は…空は……頭を岩で殴られて…頭から…血を…。


「っ…空!?空!!連絡…!」


教師に連絡しても全くの無意味だと分かったから、すぐに救急車に連絡をかけようとする。だけどその腕を掴まれて、そことは違う草むらに口を塞がれ押し倒される。


「んんっ!!んんんっ!!」


「ははっ、良いなぁその目、そそるぜ」


C組の斎藤。この人の目と私の目が交差する。


「おい!とっとと男隠せ!」


頭からどんどん血を流す空を無理やり抱えて、2人は空を茂みに放り投げた。


「い、良いんすか斎藤さん。こいつ…すげぇ血が出てますよ?もしかしたら…死んで…」


「人はそう簡単に死なねぇよ。それに頭って結構硬ぇしっつ!!何しやがる!!」


斎藤の腕を思いっきり噛んで無理矢理離れさせ、拳を強く握って顔面を殴る。


「ぐぶっ!」


「絶対許さない!!あんたらは…絶対許さない!!」


自我を失いかけるけど、必死になって冷静になろうとする事でなんとか自我を保つ。もし、この自我を失えば、私は容赦なくこの3人を殺してしまうから。


「こんの…舐めんな!!」


「うっ…あっ!!」


再び地面に倒されると、服を引き裂かれて下着が露出する。その恐怖で、頭が真っ白になった。


「最初っから良い女だったからよぉ、ヤらしてくれれば文句なかったのに、こんな形になっちまったじゃねぇか」


「っ…」


冷静に、冷静に対処する方法を思いついた。空がこれ以上傷つかず、助かるかもしれない方法。


「……分かった…言う通りにする。だから…救急車に連絡はさせて…空は…大切な人なの…」


「…へへっ、良いぜ。だが連絡は仲間がする。それが終われば楽しい時間が始まるぜ?」


「……わかっ…た」


私の処女は…空に貰って欲しかった。だけど…これでいいんだ。空が助かるなら…これで…。

斎藤は下卑た笑みを浮かべると、大声を荒げた。


「おい清水!!連絡しろ!」


「は、はい!!」


清水と言われた人はスマホを取り出して連絡をする。


「もしもし。急に倒れた人がいて…住所は…」


よくもまぁ嘘がぬけぬけとほざけると、内心で思いながら、感情の全てを放り捨てそうになる。

住所を伝えて通話が終わると、私は自然と笑みが生まれた。


(良かった……これで…空が助かる…)


空が助かるのなら、私の純潔なんて安いモノだ。それに心の底から安堵していると、斎藤がベルトを外すカチャカチャと言う音が聞こえてくる。


(ははっ…最悪の林間合宿じゃん…こんなの…だけど…空に恋をしてるって言われたのは…嬉しかったな…)


私の人生のうちで、幼い頃両親に褒められた時よりも、駆けっこで1番になった事よりも、誕生日プレゼントで欲しかったぬいぐるみを買ってくれた事よりも…空にその言葉を言われたことが、1番嬉しかった。


「空…ごめん…」


下品な笑みを浮かべて、私の肉体を触ろうとする斎藤。それに抵抗もしないで、ただ黙ってそれを必死に受け入れようとした時、斎藤の腕を誰かが掴んだ。


「なっ…てめぇ…」


「悪りぃけどさ、黙って見過ごせねぇ。俺の好きな女が、目の前で襲われてるってなったらよ…死んでもここで立ち上がらねぇ訳にはいかねぇんだよ」


ボタボタと地面に血を垂れ流した、私でもわかる重症を負った、愛しい人。

私は、最低な女だ。激痛を我慢して立ち上がってくれた愛しい人に、喜んでいる。そして、その喜びで、涙を流しそうになった。


「そらぁ…空……空……」


「少し待ってろアリス。すぐ終わる」

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