前兆
「くそがっ!!なんでそんなはえぇんだよこの化けもんが!!」
フェイントを何重にもかけないと抜けないこいつも十分に化け物なのだが、相対的に見て俺の方が化け物なんだろうな。
「はっはっは!ほら股が空いてるぞ!!」
「んなっ!?」
股を抜いてゴールに直接ボールをぶち込む。カーブがかかり、俺らがゴールに指定した場所に入る。
その光景をアキラは唖然とした様子で見つめる。
「くっそぉおおっ!!やらかしたぁあああ!!もっかいだ!!もっかいやるぞ!!」
「お前これで何度目だよ」
既に20回くらいやってるが一度も負けて無いのは初めてだ。今日は随分と体がよく動く。
アキラはボールを取って俺に投げると、胸トラップして頭でリフティングを始める。
「なぁお前さ、マジでなんでサッカー部入らねぇの?それでなくても陸上部とかあんだろ?」
まぁ、スピードや体力はサッカーの基礎だ。だから俺は小中でそれを鍛えて、100メートル走でも11秒という記録を持つ俊足なのである。
「部活って性に合わなくてさぁ、6時半とかに朝練するの無理なんだよ」
そう言って話をはぐらかして、俺らは再び一対一を楽しむ。
「むふっ…汗によって輝く空…じゅるり」
「っ!?」
時折その様な声と、夏に近いはずなのに背筋が凍る様な視線を向けられ、攻撃が止まってしまったことは、言うまでもない。
………
……
…
昼飯の時間帯だが、俺らは自給自足を強いられている状況だ。だが無人島生活みたいなことを強いられるのではなく、金はちゃんと支給されて何を作るか、何を買うかは自分達で決めろというものだった。
その際に俺らはカレーを作ろうとして、デカイ調理室に入って。そこで俺はジャガイモの皮むきを任された。
だけど。
「お前…」
「流石にこれは…」
「酷すぎんだろ…」
みんなの呆れる声が口々に聞こえる。
辞めろよ!落ち込んじゃうだろうが!!
「あ〜あ、空がばぶれちまったじゃねぇか」
「いやでも身ごと皮剥いてもう殆ど残ってねぇじゃねぇか。サッカーでは化けもんなのになんでこんな料理センスが壊滅的なんだ?」
「ぐふっ!」
さっきまで一対一で負けてた筈のアキラからダメ出しを貰うが、隼也がフォローしてくれる。
「だけど良いんじゃねぇの?こいつ普通に頭良い、それにプラスしてサッカーの腕前もプロ級と来てる。空、お前今身長何センチだ?」
「確か…最後に測ったのが182…」
それはまぎれもない事実だ。本当は190欲しかったんだが、無理だと諦めた。
「結構な高身長、ガタイも良い。顔は上の下ってトコだ。これだけ見りゃ男から嫌われて当然だろうが、ほい、アキラから順番に空の悪いトコ行ってみろ」
おいおい、そんなこと言ってもあんまり出てこないんじゃ無いか?こう見えてハイスペック男子ですよ俺は。
「料理が壊滅的」
「高所恐怖症」
「暗所恐怖症」
「意外とコミュ力が無い」
「美術が壊滅的に下手」
「家庭科も同じく」
泣いて良い?ね?泣いて良い?もうここでギャンギャン泣くよ。もしここに誰もいなかったら泣いてるんだけど。
つかムッチャ出てくるね。敷いて1、2個ぐらいだと思ってたんだけどなぁ…?
「お、おう…意外と出て来たな。まぁその悪い一面も見てもこいつは良い奴だからな。アリスちゃん?気を抜いてると、こいつを他の女に取られちまうぜ?」
結局その話がしたかっただけか…と言いたかったが、それを遮る様にアリスの声が響く。
「空を前にして気を抜いた事なんて一度もないよ。後、空が女の子と遊んでる、又は話してるところなんて殆ど見た事ないからそれは大丈夫だよ?」
それイコール俺に女友達がいないと言ってるようなものなんだが…あ、待って。今凄い胸が痛い。
「ぶふっ!空ぁ、お前言われてんじゃねぇか。そんなアリスちゃんにはこの人!!」
そう言って隼也が肩を寄せて俺との立ち位置を交代させて隣に来させたのは、隼也の彼女、佐藤椎名さんだ。
「ちょっと、隼也?」
「まぁまぁ落ち着いて。空はどうだ?」
「まだ話したこともないのにどうって言われても……どう思う?」
「隼也の自分勝手に振り回せるのは、本当に同情する」
そこだけは本当に同情する。ましてや彼女なんて立場なんだから振り回されまくってんだろう。
「この苦悩…分かってくれる?」
「あぁ…ボーリング行こうとか言って連れ出したくせに寝坊で1時間遅刻して来たりとか」
「私の家に一回誘った時に居心地がいいからって勝手に寝たりとか…」
「お互い…苦労してんな?」
「うん…黒川君なら仲良くなれそう…」
隼也のヤバさがお互いに知ってるもの同士、気が合いそうだが何処か嬉しく無い様な気もする。少なくてもこんな繋がりで仲良くなりたいとは思わなかっただろう。
「同じくだ…」
「っ!?」
アリスが一瞬ビクンッ!と跳ねた様な気がする。
「ねぇ、黒川君って」
「空で良い。で、どうした?」
「えっと…期末の数学で分かんないとこがあってさ」
「あぁ、数学は得意だから教えられるぞ」
「ほんと?ありがと」
「………」
アリスから凄い、とんでもなく凄いジト目を向けられているが、俺はそれを受け流す事にした。
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