林間合宿・準備段階

「いやったああああああ!!」


全教科赤点回避したアリスは、大喜びではしゃいで俺に答案用紙を見せてくる。62点。決して良いとは言えない点数だが、それでもあの頃に比べて格段に成長してる。


「ありがとね空!!これも全部空のお陰だよ!」


アリスはいつものように俺に抱きついた。最近俺も抵抗感が薄れ、なされるがままになっている。だけど、理性を押し殺す俺の身にもなって欲しいもんだ。


期末試験が終わり、いよいよ残すところ数日で夏休みが始まる。俺達は、期待に胸を膨らませている。その理由は、夏休み前々日に行われる、一泊2日の林間合宿だった。

その林間合宿では宿は学校が手配してくれるが、それ以外は全て自分達が行うというものだ。当然班を作らなければならないが、それも自由に決めろとのことだった。


「アリス、俺と組まねぇか?」


「喜んで承りますぞ!!それに私仲良い女子とか居ないしねぇ」


そうだった。アリスは俺と関わる時間が多すぎるせいで友達が殆ど居ない。その事について聞いてみる。


「なぁ、なんで俺と友達で居てくれるんだ?」


「中学結構やられたから、結構他人を信用できなくなったんだ。だけど、空は例外〜!」


腹に顔を埋めてスリスリと顔を擦りつける。いつもならなされるがままでいるのだが、今だけは頭を撫でてやる。アリスはそれに、一瞬驚いたような顔を見せるが、直ぐに幸せそうな顔になった。


(癒されるな…)


アリスの幸せそうな顔を見てると、俺まだ幸せな気分になってくる。

だけどその空気を読まずに、隼也は俺に話しかけた。


「空!一緒に班組まね?あと別クラスだけど俺の彼女も」


気心知れている隼也なら構わない。特に問題とかも起こさなさそうだ。


「おう。つかお前……彼女居たのかよ」


「あれ?言ってなかったか?実は結構長くてな、今は付き合って一年ってところよ」


「マジかよ」


全く知らなかったのでかなり驚く。まぁそれはさておき、あと2人班に入れなければならない。正直気心が知れない連中は入れたく無いんだが。


「なぁ、アキラとかはどうなってんだ?」


「…アイツは他の班に引っ張りだこだから諦めろ」


同じサッカー部のレギュラーで、ディフェンスの要みたいな奴だ。ガタイもかなり良く、フィジカルだけなら全国トップとも渡り合える化け物だ。

因みに何度か一対一をしたことがあるのだが、本気出しても10回仕掛ければ3回は止められるレベルで強い。

そしてそんな話をしていると、授業の終わりを知らせるチャイムの音が鳴り響くのだった。


………

……


「林間合宿の場所は結構な山奥らしいよ?」


パンフを見ているアリスと一緒に自販機でジュースを買う。クソッ…じゃんけんで負けたから俺が奢ることになっちまったよ。


「泳げるかな?」


「泳ごうと思えば出来るんじゃねぇか?ま、学校側に言ってみねぇとワカンねぇだろ。ほらコーヒー」


アリスが頼んだのはブラックコーヒーだった。「ありがとね〜」といいながらそれを受け取ると、口に流し込む。


「よく飲めるな…」


「アレ?もしかしてコーヒー飲めない?」


「いや、微糖なら飲めるけどブラックはマジで無理。苦すぎるだろあれ…」


謎の保険を掛けて、俺は購入したポカ○を口に流し込む。

すると、俺たちの後ろに来た奴らがいるので避けようとした時、声をかけられる。


「あれ?これが噂の転校生?」

「すっげ、本当に金髪じゃん」

「つかいい体してんじゃん。本当に高校生?今まで何人とヤッてきたの?」


それを口にする、明らかに普通の生徒とは思えない、所謂ヤンキーと呼ばれる連中がそれを言った。


「そういう質問を女子にすんのはどうかと思うんだけど?」


少し腹を立てながらその3人の1番前に居る奴に声を出す。


「あ?何お前、こいつの彼氏?」


「単なるダチだ」


「なんだ良かった、セフレかよ。なら俺もなっていいか?」


外道かよこいつ。

アリスに手を伸ばそうとする男の手首を掴み取る。


「何してんだよ」


「邪魔すんな。喧嘩したことねぇカスが粋がってんじゃねぇ」


「喧嘩することがこの学歴社会の日本で自慢になると思ってんのか?」


ヤバイ、このままだと本気で喧嘩に発展しそうだ。あんまり人を殴るのは好きじゃない俺は、出来れば暴力沙汰は避けたいし、3年で停学とか冗談じゃない。


「おいお前ら!折角停学を終えたばかりなのに何をしている!」


そこに来たのは教育指導の田中先生。かなりガタイが良く、腕も太い典型的な体育教師だ。


「チッ…めんどくせぇのが来やがった」


そう言って、男達はその場から立ち去った。


「アリス、大丈夫…アリス!?」


アリスの体は堪えているだろうが、それでも小刻みに震えている。


「は、ははっ…ごめんね。昔の事と重なっちゃって…ただでさえ私のせいなのに…」


「気にすんな。全くお前のせいじゃねぇから」


「……やばい…空がイケメンすぎて惚れてたけどまた惚れそうなんだけど…というかもう爆発しそうなんだけど…」


折角のシリアス展開だったのにさっきの言葉のせいで台無しだよこの野郎。


「大丈夫かアリス、空」


そうフランクに話しかける田中先生に、大丈夫ですと返してさっきの生徒について聞こうとする。


「さっきの生徒って?」


「3年Cの斎藤、鶴橋、清水だ。2年の冬結構な暴力沙汰を起こして3ヶ月停学だったんだが、昨日それが終わったんだよ」


「まさかアイツらも林間合宿に?」


学年全体で林間合宿に行くんだ。まさか。


「行くことになる…なにも問題が起こらなきゃいいが」

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