空の秘密

「待って!!マジ待って!!やっぱ無理無理無理!!アリス!!アリス!!」


「はぁ…空からこんなに名前を呼ばれるなんて幸せだよ〜」


「そんなこと言ってる場合じゃねぇ!」


俺がこんなに焦って居るのには理由がある。それは、人生初のジェットコースターだ。元々高いところが結構苦手な俺にこんな場所は無理だったのだが、アリスがどうしても言うからと乗ってしまった。今ではとても後悔している。


「大丈夫だよ空!もし事故とかになったら私が命かけて守ってあげるから!」


「あ、アリス……」


イケメンだなぁ、アリスは。

そう思っているとアリスは目の前を指した。前を見てみると、急落下2秒前の場所まで来ていた。


「あっ…ちょっ…心の準備が…あああああああああああああっ!!!」


「あっはっはっはっ!!」


………

……


「し、死んだかと思った…」


走馬灯が見えたぞ。本気で死んだかと思ったじゃねぇか。え、何あれ、あれがジェットコースター?凄すぎるだろ。今も足ガクガクだし。


「大丈夫?」


「なんでお前は平気なんだよ…」


首を傾げていつもと変わらぬ顔で問いかけるアリス。こいつ心臓強すぎるだろ。


「まぁね〜、アメリカでバンジージャンプとか体験したことがあってさ、それに比べればだいぶ楽だったよ」


「あぁ…それってさ、なんか死んでも文句を言いませんみたいな誓約書書かされんの?」


なんとなく話に聞くやつを聞いてみると、少し考えるようなそぶりを見せる。


「まぁ書くやつもあるけど、それでもだいぶ安全だよ?日本みたいに厳重な装備をしたりしないけど」


「十分危険じゃねぇか!!」


「それを言うなら命綱無しで屋上まで登ってきた空はどうなるの?」


「うぐっ…」


たしかに今冷静に考えてみれば一歩間違えたら死んでたか、良くても一生車椅子だったんだ。良くあんなこと決断したと自分でも思う。


「まぁでも、それをしてくれた空にはとっても感謝してるよ。過去の私を知っても軽蔑しないでいてくれた。本当に…ありがと」


犯罪を犯しても居ない、単なる被害者をなんで軽蔑しなくちゃならないんだ。そんなクソ野郎になった覚えは一切ない。


「……何辛気臭い顔してんだよ、らしくねぇから辞めろ」


そんな事を言って暗い話題を終了させ、俺らは色んな場所に回った。アトラクションを全制覇というアリスの目標を掲げて、本当に色々な話をした。


だが、そんな楽しい時間にも終わりはやってくる。アトラクション全制覇、最後のアトラクションは、王道の観覧車。時刻が7時を超える時間帯ではパンフレット曰く、ここから綺麗な星空とイルミネーションが見えるらしい。

アリスと2人で乗り込んで、観覧車はどんどん上に上がっていく。


「ぷはぁっ!楽しかったなぁ」


「おいおい、まだ終わりじゃねぇだろ?」


「そうだけどさぁ…もうこれが終わったら終わりなんだから、少し寂しいよ」


その名残惜しそうな顔に、俺はとある事を言おうとした。口を止めようとするも、何故かそれは出来なかった。


「……まぁ…その…なんだ。俺なんかでよければいつでも誘えば行くから…」


「っ!ほ、本当に?」


「おう…」


お互いの顔が真っ赤になるのを自覚して、変な空気が流れる。そらが嫌で別の話題を話そうとしたが、アリスの声によってかき消される。


「……ねぇ…空…キスしたい…」


本能として、それを許容したかった。だが、俺の長年培ってきた理性がそれにブレーキをかける。


「…ダメだ」


「それは、空の過去に関係してる?」


一瞬、頭の中が真っ白になる。そして、思い出したくもない記憶が脳内に浮かび、頭痛がする。


「…別に、付き合ってもねぇ男女がそういうことするもんじゃねぇだろ」


「空、ここに来る前、色んな事を話したよね。だけどそれは全部高校に入ってから。中学の時何があったのか、空は一向に話してくれなかった」


「……」


その事に俺は沈黙を返すしかない。


「だけど…それはいいよ。私も過去を隠してたし、人のことをどうこう言える立場じゃないのは分かってるから」


アリスは席を立ち上がり、俺の横に座り手を取った。


「だから待つよ。空の過去に何があったのか話してくれるまで」


その時、遊園地の噴水から、綺麗なイルミネーションを目の端で捉えた。いつもならそれに釘付けになっているはずなのに、今は、今だけは、アリスの顔から目を離せなかった。

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