2人の仲を引き裂くことは不可能なのです

「空……どうして…」


「屋上の扉が閉まってたからな。下から登って来た」


小学校習わされたロッククライミングが、こんな所で役に立つとは思わなかった。だけどまぁ、命綱無しで登ったから死ぬほど怖くて膝ガクガクなんだけど。

だけどアリスは、絶望に染まった様な顔を浮かばせた。


「……聞いてた?」


「まぁ粗方な」


情報収集の為にスマホのカメラまで起動させたし、会話は全部録音出来てる。録画を止めて、スマホをポケットの中に放り込む。


「…どれくらい知ったの?」


「ゴミを投げられてお前がアメリカと比較した事から察するに、アメリカでイジメを受けていた。それも結構酷いな」


今のアリスに嘘を言っても何も通じないだろうから、全部正直に言う。すると、アリスは「ふぅ」と溜息を吐いて何処か吹っ切れた様な顔になった。


「当たりだよ。そうだよ。空に会いたいって気持ちを免罪符にして、私はアメリカから逃げて来…」


殆ど無意識だった。無意識のうちにアリスに向かって走り抜けて、力一杯抱き締めた。

あのままだと、アリスが壊れてしまいそうだったから。


「お前が俺に会いたいと思ってなくても構わない。辛かっただろ。苦しかっただろ。もう大丈夫だ」


「なんで…なんでよ…幻滅されると……思ってたのに…」


「悪いがイジメを受けてる奴に幻滅するほどクズじゃねぇんだわ」


「バカ!!バカ!!バカバカバカ!!」


気がつけばアリスは涙を流していた。震える肩をめいいっぱい抱き締めながら、アリスを宥める。


「よく1人で頑張ったな。安心…ってのには程遠いが、次からは俺が、お前の味方をしてやる」


そんなくっさいセリフを吐くが、これしか思いつかなかったんだから許してほしい。


「そんなの…言われたら…ますます空に依存する…良いの?私…今も空のこと好きなのに、もっと好きになっても」


その時、数秒間の沈黙が生まれて、俺は少し冗談気味に声をかけた。


「……これを受ければ告白になりそうだな」


「テヘッ、バレた?」


「うお…!お前とんでもねぇ女だな!」


このシリアス展開に乗じて俺に間接的に告白させようとしやがった!!凄すぎるだろこいつ!!

しかも思わずアリスの体から離れてしまった。だが、手をワキワキとさせながらアリスが近づいてくる。


「ふっふっふ…アメリカでのしがらみが取れたことだし、これからはもう躊躇なく空にアタックできるね?」


「おい待て…前も凄く無かったか?」


抱きついて来たりとか抱きついて来たりとか抱きついて来たりとか。全部恋人じゃなければ行わないぞ?


「何を言うか!!今なら空の寝込みを襲っちゃうくらいだよ!!そして強引にキスをするレベルまで跳ね上がってるよ!」


「うおこいつヤベェッ!!」


こいつ…もしかしたら今日俺の風呂に乱入して来そうだ。今日はシャワーだけで早めに済ませよう。うん。

あと、話すっぽかしたがあの3人組に少し忠告をしておこう。スマホを取り出して少しだけ操作する。


「いやぁ、最近のスマホってすげぇよな。画質も超良くお前ら3人の顔が撮れた。そこで取引だ。お前らもこの動画がネットの中に投下されるのが嫌なら、二度とアリスに関わんなって話だ。どうする?」


もうツイッ○ーの動画投稿の場所まで来てるんだ。俺がタップすれば、この動画が半永久的にネットの海を漂う事になる。


「は、はぁっ!?ふざけんじゃないわよ!!なんでこんな事されなきゃいけないわけ!?」


「俺の幼馴染に手ェ出したんだ。むしろこの程度で済んで感謝してほしいくらいだ。あとお前らと極力話したくねぇんだ。後5秒で決断しろ。しなかったら、言わなくてもわかるよな?」


スマホを弄ぶと、3人はアリスを押しのけるようにして屋上の鍵を開き、そこから出て行った。

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