空君は意外と運動神経が良いのです
「空!!」
体育の時間帯、男子はサッカー、女子はマラソンといった風な種目で授業が行われ、マラソンを終えた女子グループは男子達のサッカーを眺めていた。その試合は、4チームに分けられた中で、どのチームが優勝するかという単純なものだった。
本物のサッカーコートよりはコートは狭く、人数も5人対5人のもので、フットサルみたいなもんだった。
「はっはっは!!サッカーで俺に勝てると思うなよ!!」
性格が豹変したようにその言葉を叫ぶ。
中学時代、俺はサッカー部に所属していた。そのチームは選手権の優勝常連校。俺ってばそこでFWのレギュラーを獲得してたんだぜ?意外と凄くね?
「お前なんでサッカー部入ってねぇんだよ!?マジで疑問なんだけど!?」
サッカーの試合だと張り切っていた隼也だったが、相手が俺だとわかり絶望しかけてた。まぁそれでもかなり真剣にブロックする。
「色々訳ありなんだ…よっ!」
「おわっ!?」
隼也の上空をボールが舞い、ループシュートがゴールに突き刺さった。
「いや…マジでチートじゃん…自信なくすわ……」
距離を空ければ人数の少なさが障害物を減らし直接ゴールに叩き込まれるか絶妙なところにパスを出される。プレスを掛ければフィジカルで強引に千切られる。こいつからしたらとんでもない怪物にしか見えないだろう。
「つかなんでお前今日に限って本気なんだよ…前は結構手加減してくれてたじゃん…」
「いやぁ…アリスから始まる前に言われたんだよ。『頑張ってね』って」
男というのは単純なもので、美少女に言われれば本気で頑張ってしまう生き物なのだ。それ故に今日はかなりの全力を出してしまった。
「クッソ羨ましいなぁおい!!つか…」
隼也は無理やり肩を組んで俺に問いかける。
「なぁ、正直どうなんだ?お前……アリスちゃんのこと好きか?」
「どうなんだろうな…」
好きと言われれば否定しそうだが、頑張れと言われれば本気で頑張ってしまう。俺の中でのアリスは、友人以上恋人未満の人物だろう。
俺は無意識のうちに、アリスに視線を向けていた。こちらを見てピョンピョンと跳ねている姿はウサギみたいで、とても可愛らしかったが、他女子からはぶりっ子みたいに思われそうだった。
………
……
…
「アレ?おい誰か俺の制服のシャツ知らね?」
カバンの中を弄ってみるが、制服のシャツだけが無いのだ。更衣室でそれを全員に聞く。
「知らねー」
「野郎の制服とか興味ねぇよ」
「教室に忘れたんじゃね?」
そんな声が口々に入ってくる。聖徳太子じゃないが、まぁそれくらいなら聞き取れるので、体操着のまま教室を探してみようと向かってみた。
教室に向かって入ろうとすると、人影が1つ。その人物はシャツを鼻に押し当てて顔を赤く紅葉させていた。
「スーーー…スーーー…はぁ!!いい匂い!サイコー!!」
「…な、何してんだ…アリス…」
「っ!?」
アリスは咄嗟に背中をシャツを隠すと、漫画のようなダラダラとした汗をかきはじめた。
「そ、そそそ、そそそ、空!!着替えが終わったの?」
「いや…シャツが見当たんねぇから先に戻ったんだ。で?その後ろに隠してるシャツはなんなのかな?」
「こ、ここ、これは…その…げ、元気の源…」
「誰のシャツ?」
「そ、空の…」
「返しなさい」
「はい…」
アリスはオモチャを手放す子供のような顔をしながらシャツを手放した。
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