見習い天使のたくらみ―さじ加減―
――あー、やっちまった。
人のカタチをたもつこともできなくなったミコトの魂はうずくまったまま動かない。天使はぼりぼりと頭をかいて、その魂を回収袋にポイッとほうりこんだ。
――あとはあっちか。
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キリトリセンのまえでなにやら叫んでいる少女の背後に立って、天使は手のひらで軽く背中を押した。とたんにそれは人のカタチを失って、むきだしになった魂がふわふわと不安定に揺らめく。
少し考えて、先ほどとは別の回収袋にポイッとほうりこんだ。
――しっかし、人間てのは弱いねぇ。あれくらいで壊れちまうとは。
ミコトが親友だと思っていたこの少女こそ、彼女を自殺に追いこんだ黒幕といえるだろう。
少女が恋した少年はミコトのことが好きだった。しかしそれは少年の片想いで、ミコトは最後まで少年の気持ちを知らなかったのだけど。それでも、この少女はミコトを憎むようになった。手はじめにネットに悪い噂を流し、クラスではそれを材料にさりげなくイジメに発展するよう仕向けた。表面上、自分だけは味方――という顔をして、たくみに孤立させていったのである。
その事実を、彼はそのままミコトに見せた。ちょうど百個目だったし。仕上げにぴったりなペナルティーだと思ったのだ。が、結果はこのとおりである。まったく、人間の魂は弱すぎて、いまだ扱いがよくわからない。
――またリーダーに怒られるなぁ。めんどくせー。
自分で強制終了してしまった魂は、輪廻の流れに乗せるためにペナルティーを消化してもらわなければならない。これはほんとうだ。しかし、その魂がペナルティーに耐えきれなかった場合は特別に救済措置がとられる。どこまでその魂が耐えられるか見抜けなかった天使のミスだからだ。
耐えられるギリギリのところをつくペナルティーを与えられてこそ、一人前の天使とされる。
このぶんでは、まだしばらく見習いから脱却できそうにない。
はあぁ……と、おおきくため息をついたとき、ピロロンと端末が音を立てた。
また彼の担当区域で強制終了した魂が出たらしい。
キリトリセンがあるこの空間は、ミコトのペナルティー用につくった場所だったが、案外つかえる。毎月の間引きノルマの役にも立ちそうだし、ペナルティー用としてもまた利用できるだろう。
毎月間引く魂をえらぶのもなかなかめんどくさいのだ。あらゆる年代からバランスよく――というだけで、特定の条件があるわけではないのがかえって厄介なのである。
そうだ。どうせなら、ほんとうに生死をわけるキリトリセンにつくりかえよう。罪のあるなしなんてどうでもいい。広めた噂どおりの場所にするのだ。うん。それがいい。
まったく人間なんて生きてせいぜい百年なのに、なぜこうも死に急ぐのだろう。おかげでここ数百年、休むひまもない。これくらいの楽しみがなければやっていられないというものだ。
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さて。とりあえず強制終了してしまった魂を迎えに行かなくてはならない。それからリーダーに報告をして、ミコトの魂を救済しなければ。
――あぁーやだやだ。
気が重い。めんどくさい。リーダーの説教は長いのだ。
今度こそ、さじ加減をまちがえないようにしよう。もう何度目かわからないけれど。いちおう心に誓ってみる見習い天使だった。
(続)
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