ミコトの場合1―強制終了―
――九十九個目。
ソレをそっと回収袋に入れて、ミコトは両手をあわせた。
「あと一つだねー。あれぇ? もうすぐ目標達成だっていうのに、ずいぶん浮かない顔してんねー」
――あたりまえだ。
自分が成仏するために他人の魂を百個集めるなんて。そんなの罪悪感しかない。
「そりゃあ、楽しくて楽しくてしかたないーなんてことじゃペナルティーにならないからねぇ。しかたないよねぇ」
最初のころは、勝手に人の心を読むな! と、いちいち噛みついていたけど、最近ではそんな気力もない。
――はぁ。ホントあたし、なんで死んじゃったんだろう……。
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それはたぶん勢い。
あるいはノリ。
ずいぶんないい方だけど、事実なのだからしかたない。
ただフ――ッと。死んじゃおうかな……と思って、そのまま死んでしまったのだ。
もしあのとき、一瞬でも立ちどまっていたなら。そして『我にかえる』ことができていたなら。きっと、こんなことにはなっていなかった。
まさにあとの祭り。
後悔先に立たず。
しかしミコトは……疲れていた。
どうしようもなく。疲れていたのだ。
ある日突然、高校でハブられるようになって。さらにはネットに個人情報から誹謗中傷まで、あることないこと流されていると知った。
ずっとハブられないため、イジメられないための人間関係に神経をすり減らしてきたのに。そんなの、なんの役にも立たなかった。
家に帰れば帰ったで、毎晩罵りあう両親の声に神経を削られる。
そんな日々を過ごしていて、あのときフ――ッと意識がどこか遠くにもっていかれた。
死のうという決意も。
死にたいという願望も。
なにもなかった。
ただ疲れていて。フッと、ほんとうにフッと『死んじゃおうかな』と思って。そのときちょうど、天高くそびえているビルが目のまえにあって。ふらふらとのぼって。ふらふらと飛んでしまって。
そして。
気がついたら、ここにいた。
暗いのか明るいのかもよくわからない。
なんだかモヤっとした世界。
そして、天使を名のるチンピラがあらわれた。
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『自分で強制終了しちゃった命にはペナルティーがあるの。きみは……そうだなぁー。魂百個でいいか』
ペナルティーを消化するまで成仏できないのだとミコトに告げた自称天使は金髪アロハ姿で。街中にいたら百人中百人が『チンピラ』認定しそうなチャラ男だった。
ちなみに、人間が『死神』と呼んでいるものも、じつは天使なんだそうだ。
この世のバランスをとるため、定期的に命の間引きをするのも、事故や事件でとうとつに断ち切られた魂を導くのも、『天の使い』である天使の仕事だとかなんとか。まぁミコトにとってはそんなことどうでもいいのだけど。
とにかく、ミコトの担当だというそいつは、やたらうっとうしいしイラッとするチンピラ天使だった。
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「百個目、かかったよー」
相変わらずイラッとくるチンピラ天使が見せてきたのは、人間がつかうタブレットとおなじような、ひらべったい板状の端末だった。
しかし、その画面が映し出しているのは『一夜のキリトリセン』がある空間。そして。
「……うそ」
その『キリトリセン』のまえで立ちすくんでいるのは、思いもよらない人物だった。
(続)
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