ある少女の場合―99個目―
時刻は午前0時0分0秒
キーワードは『一夜のキリトリセン』
少女はそれを隠しコマンドのようなものだと思っていた。
なにか特別な掲示板に入れるとか。レアなゲームがやれるとか。隠しモードにアクセスするためのキーワードにちがいないと、そう思っていたのだ。
だって、今日と明日をわけるとか。生死をわけるとか。そんなことが現実にあるわけがない。
信じない。そんな場所あるわけがない。
なのに。
なのに。
ここは、なんなのか。
上も下も右も左も。自分の手すら見えないくらい真っ暗で。凍りついたような闇の中、足もとにある真っ白い点線だけが浮きあがって見える。
耳に痛いくらいの静寂。聞こえるのは自分の浅い呼吸音と、こめかみに心臓が移動したのではないかと思うほどズキズキバクバクと脈打っている心臓の音だけ。
夢だ。今自分は夢を見ているのだ――と、少女はまっさきにそう思った。そう思おうとした。
手の甲をつねったら痛かったけれど。頬を両手ではさむようにパンッと思いっきり打ったら痛くて熱くて耳がキーンとなったけれど。
夢だ。夢にきまっている。そうでなければ、こんなことが起こるわけがない。
何度もそういい聞かせて。そう思えばそれがほんとうになるのだというように。何度も。何度もいい聞かせた。いい聞かせていい聞かせて……――やがて、認めざるをえなくなった。
唇を強く噛みしめすぎて出血したのか、口のなかに鉄の味が広がる。……認めたくないけれど。これは、夢じゃない。
――こんなことなら、いつもどおりあのバカ女にやらせればよかった。
おもしろいゲームだったら。
おもしろい掲示板だったら。
そう思えばこそ自分でためしてみたのに。でも……なんで、そんなふうに思ったんだろう?
SNSでは誰も彼もが『死の境界線』とか『生と死のキリトリセン』とかいっていたのに、なぜ――。
「あ……」
夜明けだ。あたりは変わらず深い闇だけれど、少女にはなぜかそれが『わかった』のだ。
朝。進むなら今だ。
どうしよう。
どうしたらいい。
どうすれば――。
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キリトリセン。
生も死も運次第。
進むか。
とどまるか。
少女は――。
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(続)
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