第97話 王者の真価
私の拳を受けたバルザックの体が、炎に包まれながら後方に吹き飛ぶ。それでも私は、構えを解いたりはしなかった。
感触で解る。今の一撃は、致命打にはなっていない!
「……クッ、ククッ、ヒャハハハハッ」
火だるまになって倒れながら、バルザックが嗤う。その嗤い声には、僅かな狂気が滲み出ている。
「イテェ……イテェイテェイテェ! そうだこの痛みだ! オレ様の求めてたモノは!」
そう叫ぶと、バルザックは勢い良く跳ね起きた。同時に、体の炎が急速に鎮火していく。
「認めてやるよォ、『
「……っ!」
辺りの空気が、一気に冷え込む。炎の代わりに、厚い氷がバルザックの全身を包んでいく。 数秒後、そこには、氷の爪と鎧を身に纏ったバルザックが立っていた。
「これがオレ様の、『
氷の爪を構え、バルザックがこっちに向かって駆け出す。私は足止めの為、素早く短い詠唱を口にした。
「『炎よ、
突き出した掌の周りに無数の炎の矢が生まれ、バルザック目掛けて飛んでいく。けれどバルザックは、それを見て鼻で笑った。
「こんなチンケな火で、オレ様が止められるかよォ!」
バルザックが爪を振りかざし、矢の群れを一薙ぎする。途端、現れた氷の矢が、炎の矢を総て相殺してしまった。
「キャッ……!」
炎の矢を相殺し切ってもまだ余りある氷の矢は、そのまま私に向かって降り注ぐ。
何とか叩き落とそうと試みたけど数の多さはどうしようもなく、幾つかの矢は私の体を抉り、貫いていった。
「オラオラァ、これで終わりじゃねェぞ!」
全身の痛みに動きを止めた私に、続けて、バルザックの爪が迫る。それを小手で受けかけた時、突然、全身に激しい悪寒が走った。
「……くっ!」
私は出しかけた腕を引き、代わりに、生身の左腕でガードを試みる。直後、灼熱の鋭い痛みが左腕を襲った。
「づうっ……!」
「チイッ、そっちの小手もブチ壊してやろうと思ったのによォ!」
けれど直後の舌打ちに、私は自分の感じた予感が正しかったと悟る。多分あいつが纏ってる氷総てに、氷化の力があるんだ……!
「だがまァ、すぐに終わられても面白かねェ! 足掻いて足掻いて足掻きまくって、オレ様を楽しませなァ!」
そう言って、バルザックは続けざまに爪を振り下ろす。その軌道が小手を狙っているのは、どう見ても明らかだ。
私は何とか小手を守り続けるけど、その度に体に浅くはない傷が刻まれていく。更に傷口を軽く凍らせられ、体温の低下から体力の消耗がいつも以上に激しくなっている。
このままじゃジリ貧だ。何とか打つ手を考えないと……!
「ハッ、守ってばっかかよ。飽きてきたな、そろそろ終わらせるか」
いつまでも攻めあぐねている私に、バルザックが冷めた顔で吐き捨てる。そして爪での攻撃から一転、素早い動作で私のお腹を前蹴りで強く蹴り飛ばした。
「かはっ……!」
重い衝撃と込み上げる吐き気に、息が詰まる。私は奥歯を強く噛み締め気を保たせると、ギリギリのところで受け身を取り、残りの衝撃を殺した。
「……ぅ……」
お腹を押さえ、身を起こす。さっきまでのような反応は、もう出来そうにない。
どうしよう。せめて小手が壊されないように出来れば……。
「……!」
その時、私の脳裏に一つの考えが閃いた。これなら、もしかして、バルザックに対抗出来るかも……!
迷ってる暇はない。今は、どんなに低い可能性にだって賭けるしかないんだから……!
「さァて、お祈りは済んだかよ?」
バルザックが、右手の爪を更に肥大化させる。恐らくは、次の一撃で決めるつもりだ。
「思ったより呆気なかったなァ。それじゃ、全部終わるまでオネンネしてな!」
爪を構え、バルザックが床を蹴る。私は――。
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