第96話 受け継がれた炎の意志
扉が壊れるのも構わずに、全力で蹴り開け中に躍り込む。広い玉座の間にはただ一人、見知った青髪の男だけが、足を組み玉座に腰掛けていた。
「オイオイ、やあっと来やがったか。オレ様暇すぎてこの城何度もブチ壊したく……って、おりょ」
青髪の男――バルザックは、私を目に入れると、少し驚いた顔になる。けどすぐに、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「――これはこれは、『
「その名前で呼ばないで。私の名前はクーナよ!」
「そりゃあ悪かったなァ、『
「……っ」
あくまで呼び方を改めないバルザックに頭に血が昇りかけるけど、すんでの所で堪える。
これは挑発だ。乗ったら、相手の思うツボだ!
「……へェ。流石にこれで冷静さを失うほど馬鹿じゃねェか」
「もうあの時のようにはいかない。ここで、私が、あなたを倒す!」
「出来るのか? たった一人で」
見下すように、バルザックが嘲笑う。私はそんなバルザックを、真っ直ぐに見据えて言った。
「必ず勝つ。その為に、今、私はここにいるの」
バルザックの目が、私の目を見つめ返す。そしてバルザックは――心底愉快そうに、声を上げて嗤った。
「クッ、ハハッ、ギャハハハハハハハハッ! ガキだと思ってたがどうして、なかなかイイ女じゃねェの! テメェが『
「そのクリスタっていうのが何なのかも、私が勝ったら教えて貰うよ!」
「いいぜ。勝てればだが……なァっ!」
そう言って、バルザックが玉座から立ち上がり、足下の絨毯を殴る。すると氷の槍が地面から突き出て、私の方へと飛んできた!
前の私だったら、慌ててかわすしかなかった。けど今なら!
「『火柱よ、我が身を守る壁となれ』!」
「何っ!?」
手を前に突き出し短い詠唱を終えると同時、私の目の前に大きな炎の壁が現れる。氷の槍は炎と真っ向からぶつかり、蒸発して消えた。
「『
水蒸気がバルザックの視界を遮った、その隙を逃さず私はすぐさま肉体を強化する。そして水蒸気を突っ切り、バルザックに向けて突進する!
「拳を燃やすしか出来ねェお嬢ちゃんじゃなかったって事かよ!」
「ハアアアアッ!!」
脇腹を狙い、回し蹴りを放つ。流石のバルザックも、それをガードなしで受けようとはしなかった。
「チイッ!」
バルザックが片腕を腹の横に構え、私の蹴りを受け止める。途端に固い岩にぶつかったような感触が足を襲うけど、この程度じゃ私も怯んだりしない。
「まだまだ!」
私は軸足を即座に入れ替え、今度は脳天目掛けて後ろ回し蹴りを繰り出した。けどそこで、バルザックはニヤリと笑みを浮かべる。
「ハッ、読めてンだよ!」
「っ!?」
バルザックは素早く私の足首を掴むと、そのまま遠心力を付けて、近くの柱に放り投げた。受け身の取れないスピードに、私は敢えなく背中から柱に激突する。
「あぐっ!」
「素早く重くはなったが、動きが読みやすいのは変わってねェなァ、お嬢ちゃん!」
全身を貫く衝撃に、視界がチカチカと明滅する。けどそれに構わず、私は言葉を口に上らせた。
「『出でよ
「うおっ!?」
私の生み出した無数の火球に、バルザックが初めて慌てた声を上げる。直線的にしか飛ばないとは言え数の多さに手を焼いているらしく、バルザックの攻撃の手がピタリと止まる。
「畳みかける! 『燃え盛れ地獄の炎、我が
詠唱を終えると同時、小手を嵌めた右手だけが激しく燃え上がり始める。特訓の末、やっとここまでコントロール出来るようになった私の力。
殴っただけじゃ倒せないなら……とことんまで焼き尽くしてあげる!
「クソがァ! あの時ブチ壊した宝石は単なる飾りだったのかよ!」
「いっけえええええ! 新生『
そして、炎の合間を縫った私の一撃が、遂にバルザックの胸を穿った。
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