第98話 魔氷を打ち砕け

「『満ちよ永遠とわの氷雪、我がかいなに宿り、零下の絶獄に総てを堕とせ』!」


 小手を身に付けた右腕を構え、いつもとは違うイメージを形作る。詠唱が終わると同時、私の右腕は、バルザックと同じように厚い氷に覆われていた。


「何ィっ!?」

「やああああっ!!」


 その右腕を、バルザックの爪に真正面からぶつける。するとバルザックの爪の先が、激突の衝撃にひび割れた。


 やっぱり……! 私の思いつきは正しかったんだ!

 既に凍っているものを・・・・・・・・・・更に凍らせる事は・・・・・・・・・出来ない・・・・。つまり、先に小手に氷の魔力を纏わせておけば、小手の破壊を防げる!

 総てはひいおじいちゃまのお陰。ひいおじいちゃまが、イメージさえ確かならどんな形にだって魔力を実体化出来るって教えてくれたから。


 だから私は――バルザックを倒せる!


「炎以外も操れたのかよ!? ……だが! なら! 実力で黙らせりゃいいだけの話よォ!!」


 私の反撃に一瞬は驚いたようだけど、流石は敵の幹部クラス。すぐに気を取り直すと、両の爪を操りラッシュを仕掛けてきた。


「何の!」


 言動に似合わず、フェイントも織り交ぜたその巧みな攻めの総てを防ぐ事は出来ないけど、こっちだって日々サークに揉まれてる身だ。繰り出される攻撃のうち、どれが本命打なのかを読む事ぐらいは出来る。

 本命打を喰らわないよう気をつけて、的確に反撃を重ねていく。氷の爪、鎧、その全体に、私の与えた細かなヒビが広がっていく。

 それは、テオドラとプリシラがくれた魔道具で肉体が強化されてるから出来た事で。皆に支えられて、今、私はこうして戦えている。

 だから、負けない。私を支えてくれた皆の為にも、私は、絶対に負けられないんだ!


「ギャハハハハ! イイねェ! 最っ高! 全力の殴り合いってなァ最高に熱くなれるなァ、オイ!!」


 バルザックは本当に、この戦いを楽しんでいるようだ。残虐な性格ではあるけれど、どんな時も純粋にただ一人の戦士であろうとするその姿勢は、少しだけ感心するところもある。

 けど、バルザックは、自分の欲を満たす為に大勢の人を殺した。それを許す事は、絶対に出来ない!


「っしゃらあああああっ!!」


 ボロボロになった氷の爪を、大きく振りかぶるバルザック。決めるなら……ここしかない!


「『限界開放リミットバースト』、最大出力っ!!」


 私は魔道具の力を、最大にまで引き出す。すると体に羽が生えた感覚と、激しい疲労感が一気に襲ってくる。


 これで……決める!


「はああああああああっ!!」


 私は全力の拳を、バルザック目掛けて叩き付ける。私の一撃はバルザックの爪を、鎧を、粉々に吹き飛ばしていく。


「チイッ! だが氷を砕いた程度じゃ……!」

「『燃え盛れ地獄の炎、我がかいなに宿り、総てのものを灰塵かいじんに帰せ』っ!!」

「何だとォ!?」


 拳がバルザックに届くその直前、私は纏った氷を総て炎に変換した。そして私の全力の拳と全力の炎は、遂に、バルザックの胴体を深く打ち貫いた!


「グガアアアアアアアアアアッ!!」


 お腹から一気に広がった全身の亀裂から炎を噴き出し。バルザックの体は、床を転がり吹き飛んでいったのだった。

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