第95話 突入開始

 その後、全員での話し合いでそれぞれの役割が決まった。

 まず前線で戦うのがサークとベル、他二名。バルザックの能力は、サークが抑え込む。

 そしてそれを私の他、残りのメンバーが後方支援する。私も前線で戦いたかったけど、皆、特にベルの強い反対に遭って、後方に留まる事になってしまった。

 城攻めの決行は明朝。それは、バルザックが設けた期限のリミットでもある。

 私達がバルザックを倒せなければ、この国は滅ぶ。まさに背水の陣だ。

 バルザック……見てなさい。今度は絶対に、負けたりなんかしないんだから!



 あっという間に夜が明けて、決戦の朝がやってきた。

 ひいおじいちゃまから貰ったリボンを、横髪に結ぶ。私を信じて、新たな力を託してくれたひいおじいちゃま。

 私は、あなたに恥ずかしくない人間になる。この世界は、必ず、私が守る!


「気負うな、クーナ」


 気合いを入れる私に、サークが口を開く。そして私の頭を、帽子越しにポン、と叩いた。


いつも通りやれ・・・・・・・。周りなんか気にすんな」

「……うん!」


 私の気持ちを理解して言葉をかけてくれるサークに、自然と笑顔が零れる。最近は過度に心配され過ぎる事もなく、元の通りの接し方に戻ってきてる気がする。

 サークだけが、私の力を信じてくれる。だから、私は頑張れる!


「……それでは突入します。敵がバルザック一人とは限りません。各自、警戒を怠らぬよう」


 サークから引き続きリーダーを任されたベルが、開け放たれたままの城門を見据えながらそう指示を出す。それに周りが、一斉に頷いた。


「では……行きます!」


 号令と共に、全員で城内に突入する。目指すはただ一つ、バルザックのいる玉座の間!

 廊下を抜け、階段を駆け上がる。無人の城内で、私達を阻むものは何もない。


 何もない――筈だった。


「っ、全員、止まれ!」


 突然、先頭を走っていたベルが足を止めた。それに倣い後続の私達も足を止める。

 見えるのは、玉座の間の前に立つ一人の甲冑の戦士。その姿に、私は見覚えがあった。


「あなたは……バルザックの仲間!」

「ほう、久しいな、クーナ。そこの亜人の戦士も」


 私とサークの姿を認めた甲冑の戦士が、感情の読めない声で言う。間違いない、あれは――前にバルザックを助けた、甲冑の男!


「ハッ、テメェはアイツよりゃマシだと思ってたが、手を貸すってこたぁ所詮同じ穴のムジナかよ」

「それに関しては耳が痛いな。バルザックの勝手はこちらの監督不行き届き以外の何物でもない。そこは素直に詫びよう」

「……話が見えませんが、つまり、あなたは我々の敵という事でよろしいので?」


 サークと甲冑の男に割って入るように、ベルが腰の長剣を抜く。それに対し、甲冑の男は背中の大剣に手をかける気配すらない。


「そういう事になるな。貴君らに恨みはないが、今あれを失う訳にもいかん」

「なら、悪いがここで倒させて貰うぜ!」


 そう言って飛び出したのは、あのネイビスとかいう戦士だった。甲冑の男はネイビスを一瞥すると、大きく息を吸い込むような動作を見せる。

 そして。


「喝っ!!」


 甲冑の男がそう叫んだ途端、凄まじい衝撃波が私達を襲った。吹き飛ばされそうになるのを、私は身を屈めて必死に堪える。


「うわあああああああああっ!!」


 二度、三度、重い何かが固いものにぶつかる音が、悲鳴と共に聞こえる。周りを確認したいけど、気を抜けば私も悲鳴の仲間入りをしてしまう。

 漸く衝撃波が収まり、そっと目を開くと、そこに立っていたのは私とサーク、ベルの三人だけだった。残りは皆吹き飛ばされてしまったのか、姿が見当たらない。


「……ふむ。こんなものか」


 残った私達をぐるりと見回し、甲冑の男が漸く大剣を抜き放つ。同時に、焼け付くようなビリビリとした闘気が、空気に混じって流れ出す。


「……クーナ、アイツは俺と色ボケ神官が引き受ける。お前は奥に向かい、バルザックを倒せ」

「!? 野良エルフ、何を言っている!?」


 不意に、甲冑の男から視線を外さないままサークが言った。それを聞いて、ベルが焦ったように声を上げる。


「貴様、正気か!? 奴らがクーナを狙っている事を忘れたのか!?」


 他の皆が吹き飛ばされて取り繕う必要もなくなったと感じたのか、強い口調でベルが言うそれでも、サークは表情を変えなかった。


「バルザックに対抗出来るのは俺とクーナだけ、だがアイツに対抗出来るのは多分俺だけだ。そして今は、一人に時間をかけている余裕なんてねえ」

「しかし!」

「俺はクーナを信じる。クーナ、お前はどうだ。バルザックを倒す自信はあるか?」


 真剣なサークの問い。そんなの……答えは決まってる!


「……うん! その為に、いっぱい特訓したんだもん!」

「よく言った。……聞いての通りだ、色ボケ神官!」

「本当にお前達は、人の気も知らずに勝手ばかり言ってくれる! ……仕方がない、手を貸してやる!」


 観念したように、ベルが長剣を握る手に力を込める。それを見た甲冑の男が、静かに大剣を構えた。


「話は纏まったようだな。我とて久々の戦場いくさば。精々楽しませてくれ……よっ!」


 一歩を踏み込んだと思った刹那、甲冑を着ているとは思えない速度で相手が突進してくる。それをサークの曲刀が、真っ向から受け止める。


「クーナ、行け!」

「うん!」


 私は即座にその背に駆け寄ると、踏み台にして大きく飛び上がる。けれど甲冑の男も、みすみす私の行動を見逃しはしない。


「おっと、貴君は大人しくしていて貰おうか」

「させん!」


 甲冑の男の伸ばした手が私に届きかけたその時、ベルの生み出したシールドがそれを阻んだ。私は張られたシールドを更に足場にして、更なる飛距離を稼ぐ。


「ぬうっ!?」

「後は頼んだぞ、クーナ!」

「ありがとう、サーク、ベル!」


 着地すると、私は振り返らずに玉座の間へと飛び込んだ。さあ……決戦だ!

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