第81話 足手まとい

「……サーク」


 バルザック達が去った後。まだ私を抱いたままのサークから離れ、私は口を開いた。


「……何だ」

「クリスタって、何?」

「……っ」


 サークが顔を歪め、言葉を詰まらせる。私はそこに、更に畳み掛けた。


「あいつら、私をクリスタって呼んでた。何の事か、サークは知ってるんでしょ? ……お願い、教えて」

「……」


 迷うような目で、サークが私の顔を見る。けどやがて一つ大きな溜息を吐くと、観念して話し始めた。


「……クリスタってのが何なのか、詳しい事は俺にも解らない。解ってるのは奴らがずっとクリスタを探してた事、そしてお前こそがそのクリスタだと思ってるらしい事」

「一体何で……」

「お前の血を飲んで正気に戻った後、俺にはもう洗脳が効かなくなってた。その後だ。奴らがお前の事をクリスタだと言い出したのは」


 サークの話に、ますます混乱する。私はベルの話から、神の血を少しでも引いていれば皆同じ事が出来るのだと思ってた。

 でも、そうじゃなかった? 私の血は、ただの神の血じゃない……?


「……大丈夫だ、クーナ」


 戸惑う私に、サークが笑みを見せる。けどそれは、どこか無理をしてるような笑みだった。


「例えお前が戦えなくなっても、俺が必ずお前を守る。だから安心しろ」

「……っ」


 その言葉と笑みに、どうしようもなく胸が詰まる。私はサークと、対等な相棒になりたかったのに。

 でもぎょくを失った私は、少し格闘が出来るだけの普通の人間で。新たに玉を手に入れたとしても、小手が片方しかなければいままでのようには戦えなくて。

 戦いの役に立てないなら離れようかと思ってみても、敵の狙いは私で。今の状態で一人になんてなったら、狙って下さいと言ってるようなものだ。


 今の私は――サークにとって、ただの足手まといだ。


「……邪魔が入っちまったが、飯にするか。後片付けも全部俺がやるから、野宿じゃ難しいと思うけど、今夜はゆっくり休め」


 そう言って背を向けるサークに、私は、返事をする事が出来なかった。

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