第71話 悪意の潜む村

 案内役の村人さんと、村の中を歩く。そのついでに私は、改めて村の様子を観察してみた。

 ……小さな村だ。見たところ、あんまり裕福そうには見えない。

 収穫の時期を終えた畑に作物の姿は無く、閑散としてる。……少しばかり、冬でも茂る雑草が目立つ気がするけど、常に畑の手入れをするのでなければそんなもののような気がする。

 でも、普通の村と明らかに違うのは……。


「……!」


 こっちをみていた二人のおばさんが、私と目が合った瞬間、慌てて目を逸らす。その露骨すぎる態度に、私は何度目になるか解らない溜息を吐いた。


 ――村長さんの家を出てから、ずっと、村人さん達に監視されてるような気がする。


 初めは、私が一人でやって来た事が不安なのかと思った。けれど感じる視線には、どうにもそういう怯えの色は感じられない。

 不信とも、好奇ともまた違う。敢えて言うなら、品定めでもされているかのような感覚。

 得体の知れない不安が、より一層強くなる。一方で、強く確信した事もあった。


 この村は、何か重要な事を周囲に隠している。


 思えばおかしな話なのだ。サークと一緒の時ですら、小娘だと侮られる事の方が多かったこの私。

 それを村長さんは、すんなりと受け入れた。村が滅びるかの瀬戸際の筈なのに。

 最初は認めて貰えたんだと思ってたけど……。一つ疑問が生まれると、畳み掛けるようにどんどん疑問が沸いてくる。

 こんな時、サークがいてくれたら。きっといい対処法を、思い付いてくれるのに。

 そう考えてしまって、思わずかぶりを振る。今回はサークに頼らないって、そう決めたのは私なんだから、こんな事で挫けちゃ駄目!


「……どうかしましたか? 冒険者さん」


 怪訝そうな声に、ハッと我に返る。見れば案内役の村人さんが、不審な目で私を見ていた。


「な……何でもありません」

「そうですか。……ここまで来て、やっぱり怖いから帰るだなんてナシですよ?」


 どうやら、私が帰ると言い出すのが心配だったらしい。案内役の村人さんはそう言うと、また歩き始めた。


(……普通に考えれば、一刻も早く村に平和が戻って欲しいから帰って欲しくないって意味、だけど)


 そう素直に捉えるのは危険だって、今までの違和感が言っている。私だって、無条件に人を信じるほど馬鹿じゃない。


(この村にいる間は、色々と気を付けておいた方がいいよね……)

「着きましたよ。家の中の物は、どうぞ自由に使って下さい」


 私が警戒心を強めていると、案内役の村人さんが一軒の家の前で立ち止まった。それは少し古いけど、しっかりとした平屋の一軒家だった。


「ここ、空き家なんですか?」

「はい、何年か前から」


 その言葉に、もう少しよく一軒家を観察する。窓は汚れ、家の周りも草がぼうぼうで、流石にこれは嘘じゃなさそうだ。


「後で食事をお持ちします。まずは旅の疲れをゆっくりと癒して下さい」


 最後にそう言って頭を下げると、案内役の村人さんは去っていった。私は少し悩んだけど、意を決して玄関のドアノブに手をかけた。

 ここで逃げるのは簡単だ。でももしも、この村が訪れた冒険者に何かしようとしてるなら――気付いた私がそれを止めなきゃ!


 自分の抱いた疑念がただの杞憂であって欲しいと、心のどこかでは願いながら。私は、空き家の中へと入っていった。

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