第70話 微かな違和感
「……それじゃあ、その魔物を退治すればいいんですね」
「はい。このままでは、この村は終わりです」
私の確認に、白髪の村長さんは涙ながらに頷いた。痩せ細った肩はとても小さく、頼りなげに見える。
この人の、そしてこの村に住む人達の為にも、必ず依頼を成功させなきゃ。私はそう、決意を新たにした。
今回の依頼の内容はこうだ。
村の近くにある洞窟に、最近、強い魔物が住み着いた。何度かギルドから討伐の為の冒険者が来たけど、洞窟に行って帰ってきた者は誰もいなかった。
今は洞窟で大人しくしてる魔物だけど、いつ村を襲いに来るか解らない。だから一刻も早く、魔物を退治して欲しい……という事だった。
正直、難易度が高い依頼である事は事前にギルドから聞いていた。本当にいいのかと、受ける前に何度も念押しされた。
けど、きっと。これくらいは一人でこなせるようにならないと、サークは私を認めてくれない。
いつも一緒のサークがいない事に、不安はある。でもこの程度で弱音を吐いてたら、いつまで経っても一人前になんかなれない。
もう、サークが悪夢に悩まされなくて済むように……絶対一人で、この依頼、こなしてみせるんだから!
「今夜はこの村で、どうかごゆっくりお休み下さい。どうか、どうか魔物を……!」
(……ん?)
けれど村長さんが、両手を前に出し祈る姿勢になった時。私の目に、あるものが映った。
それは、村長さんが身に付けていたブレスレット。シンプルだけど洗練されたデザインのそれは、私の見立てだと、多分純銀製だ。
村長さんの家まで来る途中で見た村の様子は、とても裕福そうには見えなかった。この家の内装だって、質素そのものだ。
そのブレスレットは、魔物の脅威に晒された村というイメージからはかけ離れて見えた。
……ううん、持ち物一つで人を疑うなんて良くない事だ。もしかしたら、村長さんの唯一の贅沢なのかもしれない。
でも……でも。もし村長さんが、何か隠してるのだとしたら……。
「あ、あの……」
「冒険者さん、宿泊の準備が出来ました!」
意を決して口を開いたその時、部屋の外から別の村人さんの声が響いた。それを聞いた村長さんは、弱々しい笑みを浮かべてこう言った。
「無力な我らに出来る事はこれくらい……冒険者殿、あなたにこの村の命運を託します」
「……解りました」
完全に聞き出すタイミングを失ってしまい、仕方無く私はそのまま部屋を出た。部屋の外には髭面の男の人が待っていて、私を見ると「こちらです」と先導して歩き出す。
私の胸には、一人で依頼をこなす事とは別の不安が生まれ始めていた――。
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