第47話 女子会開催!

 宿のお風呂は最近各地で広まってきてる公衆浴場になっていて、皆で楽々入れるだけの大きさだった。こういう公衆浴場に来る度、私は実家の無駄に広いお風呂を思い出して少し懐かしくなる。

 時間が夕暮れ時だったので公衆浴場には他にも泊まり客が来ていて、私達は彼女達と談笑しながら過ごした。その時聞いたんだけど、近々このイドで土着の神様を祀った豊穣祭をやるんだって。タイミングが合えば、私達も参加出来るかな?

 ともあれ楽しいお風呂タイムを終えて部屋に戻ってきた時には、外はすっかり火が落ちていた。サイキョウ製だという囲いが薄い紙で出来たランプに火を灯せば、ぼんやりとした柔らかい光が辺りに広がる。


「何か普通のランプより雰囲気あるね!」

「サイキョウっちゅうんはつくづく不思議な国やな~」


 テオドラとプリシラの二人は、サイキョウの文化に興味津々みたい。色んな世界を渡り歩いてる二人でも見た事がないって、サイキョウの文化って本当に独特なんだなぁ……。


「それで、二人とも。女子会ってどんな話したらいいのかな?」

「あー……それなんだけどね……」


 私が問いかけると、テオドラは何だか言いにくそうに言葉を濁してしまった。……一体どうしたんだろう?


「実はね……女子会したいっていうのは半分は本当だけど半分は方便」

「えっ?」

「本当はね、こっそりクーナちゃんに渡したいものがあったんだ」


 そう言うと、テオドラは自分の荷物袋を漁り始めた。そして中から翡翠のような小さな宝石の付いた、螺旋状の銀色の腕輪のような物を取り出す。


「それは?」

「これはね、ボクの使ってるのとは逆の効果がある魔道具。使用者の肉体を強化してくれるんだ」

「旅に出る時、兄やんの工房から持ってきた魔道具の一つやで~」


 プリシラの補足に、私は腕輪をマジマジと見る。……それって、もしかしなくても大切なものなんじゃないの?


「クーナちゃん、何か大変な事に巻き込まれてるんでしょ?」


 私の戸惑いを察したように、テオドラが言った。その目には、心配そうな色が宿っている。


「ボク達にも目的があるから、一緒には行けないけど……少しでもクーナちゃんの助けになりたいなって、シラと話してたんだ。それでこれをあげようって」

「せや~。ウチらの友達の役に立つんやったら、兄やんも喜んでくれると思うわ~」

「テオドラ……プリシラ……」


 目の奥が、思わずジンと熱くなった。二人が私の事、そこまで思ってくれてたなんて……。


「せやから~、遠慮せんで受け取ってな~? これをウチらやと思って大事にしてや~」

「……うん! ありがとう、二人とも!」

「あっ、この事、サークさんには内緒ね? サークさんをビックリさせたいから!」


 腕輪を受け取り、二人と一緒に笑い合う。たったそれだけの時間が、とても大切で、温かいもののように感じた。


「それじゃあ、堅苦しい話はここまでにして……」

「ん?」


 そんな事を私が思っていると、突如二人の目が妖しく輝いた。そして示し合わせたように、一斉に私に詰め寄ってくる。


「サークさんとのあれこれ! 今夜は根掘り葉掘り聞き出しちゃうからねー!」

「うんうん~! 恋バナなんて、こんな生活してると滅多に出来ひんもん~!」

「え、えええええっ!?!?」


 好奇心一杯の顔をした二人から、反射的に距離を取ろうとする。けど二人は素早く、私の体にしがみついてきた。


「フフフ、逃がさないよー!」

「ほれほれ、大人しゅう吐くんや~!」

「だ……誰か助けてー!」


 どうやらドタバタな女子会は、まだ始まったばっかりのようだ。

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