第46話 男子は男子、女子は女子

「すっっ……ごーい! 広い!」


 ナカイとかいう女性従業員さんに通された部屋を見て、私は思わず声を上げていた。そこは普通の宿屋なら五つはベッドが置けそうな、とても広い部屋だった。


「見て、ベランダもある!」

「うは~……中庭の景色が丸見えや~」


 テオドラとプリシラも、初めて見る部屋に興味津々といった様子だ。もっとも、私がこの部屋に二人と一緒に泊まるのは今日だけなんだけどね。

 明日になれば、私はサークとイドを発つ。けどそれは中央大陸を目指す為じゃなく……ううん、明日の事は明日考える事にして、今日はゆっくりと羽を伸ばそ!


「お前ら、ガキじゃねえんだからもうちょっと落ち着けよ……」


 はしゃぐ私達に呆れたような視線を送るのは、部屋の入口に待機したままのサーク。それともう一人。


「……何故こんな事になっているのだ……」


 サークの隣で溜息を吐き、頭を抱えるベルが、そこにいた。



 話はちょっと前に遡る。それはテオドラとプリシラを連れて、冒険者ギルドを訪れた時の事。


「……あ」


 最初にそう声を上げたのはサーク。直後に口を押さえてサッと目を逸らしたのを見て、何を見たんだろうとさっきまでサークが見ていた方を注視したところ、ベルの後ろ姿を見つけたのだ。


「おーい、ベルーっ!」


 ベルに聞こえるよう声を張り上げ、手を大きく振る。ベルはこっちを振り返ると……何故か、ギョッとした顔になった。


「ク、クーナ……」

「すっごい偶然! ベルもサイキョウに来てたんだね!」


 構わず駆け寄って、背中をバシバシと叩く。それに釣られるように、テオドラとプリシラもこっちに集まってきた。


「誰だれ? クーナちゃんの知り合い?」

「うは~、サークはんもイケメンやけど、こっちはまた爽やかな感じのイケメンや~」

「な、何だ何だ!?」


 二人にきゃあきゃあと群がられ、猫を被る事も忘れたように困惑するベル。それを見かねたのか、嫌そうな顔をしながらもサークがやってきて口を開いた。


「よう、色ボケ神官。奇遇だな」

「の、野良エルフ。この娘達はお前達の連れか?」

「ああ、道中で出会ったんだが冒険者登録がしたいってんでな。連れてきた」

「ボクはテオドラだよ! お兄さんは?」

「あ、ああ、ベルファクト……です」

「うちはプリシラ~。よろしゅうな~」


 漸く状況にも慣れてきたのか、気を取り直した様子でベルが二人に笑顔を向ける。私はそこに、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべて口を挟んだ。


「二人とも気を付けた方がいいよ~? この人、こう見えて節操なしなんだから」

「ええ~? そうなん~?」

「なっ……クーナ!?」


 慌てたようなベルの顔に、してやったりって気分になる。ふふんっ、いつかの失礼な発言は、これで完璧に許してあげる!


「ほらお前ら、いつまでもじゃれてねえで登録行くぞ」

「あっ、うん。けどその前に……ベル、良かったら今泊まってる宿屋教えて。私達もそこにする!」

「な、なら、私は君達の用事が済むまで入口で待っている」

「解った。後でね!」


 そうして私達はベルに一時の別れを告げ、テオドラとプリシラの登録に向かったのだった。



 で、ベルに案内されたのがここって訳。サークには勝手に決めるなって怒られちゃったけど、別の宿にするとは言わなかったから、いいよね?


「サークはどうするの?」

「俺は酒場にでも行ってくる。誰かさんが下戸なせいで、もうずっと思いっきり飲んでないからな」

「う……ごめん……」

「では、私はこれで……」

「は? 何言ってんだお前」


 別れを告げてその場を去ろうとしたベルの肩を、サークが素早く掴む。そして強引に、自分の方へ引き戻した。


「お、おい、何をする!」

「テメェが相手なのは不本意だが、今夜は付き合って貰うぜ。一人飲みなんざ虚しいだけだろうが」

「は!? 何を言って……」

「オラ行くぞー。こちとら吐き出したいもんが色々溜まってんだよ」

「待て、話を聞け!」


 そしてベルの抵抗も物ともせず、そのまま引きずるようにベルを連れていってしまった。……あの二人、いつも喧嘩腰の割には案外仲良いよね?


「それじゃクーナちゃん、皆でお風呂入ろうよ!」

「お~! お風呂や~!」

「う、うん!」


 暫く二人の去った廊下を眺めてたけど、テオドラ達にそう促されて、私はお風呂の支度を始める事にした。

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