第45話 異国の地サイキョウ
「わー! すっごく不思議な街並み!」
「ホンマや~。ウチこんなん見た事ないわ~」
大通りを歩きながら、テオドラとプリシラの二人が共に歓声を上げる。私もまた、他の国とは全く異なる雰囲気を持つその光景に圧倒されていた。
平屋の木造の家が建ち並ぶ、剥き出しのままの土の道。道行く人達は男も女も、前で合わせるローブに似た服を着ている。
ここはサイキョウ国の王都、イドの街。道無き道を抜けて、私達は漸くこのサイキョウまで辿り着いたのだった。
「お前ら、はしゃぐのはいいけど遠くには行くなよ。人里に着いた途端に迷子だなんて御免だぞ」
すっかりと浮き足立つ私達に、面倒臭そうにサークが言う。この国を以前に何度か訪れた経験のあるサークは、私達とは違って実にいつも通りだ。
「ところでテオドラ、プリシラ。確認だが、俺達とは冒険者ギルドでの登録が終わったら一旦別れる形で本当にいいんだな?」
「うん。この世界の事も大分教えて貰ったし、シラもこの世界の魔法を使えるようになったしね」
「それな。まさか、普通なら習得に二十年はかかる精霊語をたったの十日でマスターされるとは思わなかったぜ……」
「ふっふーん。シラは一回見聞きした事は絶対忘れないんだよ!」
面目が潰れたと少し肩を落とすサークに対し、自慢気に胸を張るテオドラ。色々と危なっかしいこの二人だけど、どうやら一部の力だけはずば抜けているようなのだ。今まで二人だけでやってこれたのも、その力のお陰なのだろう。
「あ、そうだ!」
と、テオドラが、何かを思い付いたように両手をポン、と合わせた。私は首を傾げながら、テオドラに問いかける。
「どうしたの、テオドラ?」
「ねぇクーナちゃん、お別れの前に、今夜は女の子だけで女子会やらない?」
「ジョシカイ?」
耳慣れない言葉に、私はキョトンとしてしまう。そんな私を余所に、プリシラは賛成だとばかりにうんうんと頷いた。
「せやな~。サークはんには内緒で聞きたい事も色々あるし~」
「えっ、えっ、待って、そもそもジョシカイって何!?」
「女の子だけで集まって~、趣味の事とか色々話すんやで~」
女の子だけでお話? ……それは、確かに楽しそう。そんな機会、冒険者になってからはなかったし。
「うーん……女の子だけでするお茶会みたいな感じかな?」
「例えが何や雅やな~。でもそんな感じやで~」
「そっか。じゃあ……でも……」
頷きかけて、私はサークを振り返る。サーク一人だけのけ者にして、気分悪くしたりしないかな……?
「……行ってこいよ」
けどサークは私の視線に気付くと、苦笑を浮かべて言った。そして帽子をずらして、私の頭を優しく撫でる。
「何にも気にしないで話せる同い年くらいの女友達って、お前いなかったろ。……楽しんでこい」
「で、でも、サークが……」
「俺なら久々に、一人で羽を伸ばすさ。何せ誰かさんが、全然離してくれなかったからな」
サークの言葉に、少し考える。……私はずっとサークといられて嬉しかったけど、サークは本当は、一人になる時間も欲しかったのかもしれない……。
「……うん。それじゃあ、今夜はテオドラ達と一緒に過ごすよ」
「解った。じゃあ一緒の宿を取った方がいいな」
最後にポン、と一回だけ軽く頭を叩いて、サークの手は離れていった。それと同時に、テオドラとプリシラが私の左右を囲む。
「やったー! サークさん、今夜だけクーナちゃん借りるね!」
「ちゃんと明日には返すさかい、安心してな~?」
「はいはい。あんまりうちのクーナに迷惑かけんなよ?」
「む~! そういう台詞はクーナはんに向けるもんとちゃうん~!?」
「お前らよりクーナのが、まだしっかりしてるからな」
「ぶー!」
不満そうな二人を無視し、サークが歩く速度を速めて私達を追い抜く。残された私達は急いで、サークの背中を追った。
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