第28話 冷たい部屋でクールダウン 〜直緒〜
「下の休憩スペースに着替えて集合で」
「オッケー。じゃあ、一旦解散」
「後でね」
そう言って友美と別れた私はさっきから気になってた、冷と書かれた部屋に向かってみる。
だって、他の部屋が四十二度とか、四十四度とか、六十度とか書いてある中で、唯一ここだけが八度しかない冷たい部屋。そりゃ気になるよね。
八度という表記にドキドキしつつ、未知の世界への扉を開けてみる。
開けてみると、そこにはもう一つ扉。そしてここはボス前の小部屋みたいになっている。ただこの部屋も既にちょっと寒い。意を決して、もう一枚の扉を開く。
するとそこは群青色の世界。床も壁も天井も同じ群青色のタイルが貼られていて、音も吸い込んでしまいそうなくらいの深い青。
そして、めっちゃ寒い。入った瞬間に鳥肌とかが一斉に立ってしまう。堪らず持ってるタオルを羽織る。羽織ってもまだ寒いくらいだ。しかも、この青色タイルも寒さに一役買ってそう。
椅子があるから腰掛けてみるけど、その椅子も冷たくて、 お尻が冷える。
あー、寒い寒い寒い!
どうにも人気がないのか、この部屋には私だけ。誰かとこの寒さを共有したいけど、誰もいないんじゃしょうがない。だから一人で耐えていると、不思議なことに段々と慣れてきた。
寒いおかげで入った瞬間から目はぱっちりと冴え渡ってるけど、慣れてくると、思考が「寒い」という二文字から解放され、スーッと冴え渡る。
私の頭の中の考えは、温泉に入ってから今までのあったかさとリラックス感で、ドロドロに溶けてしまった感じになっていたけど、この寒さでその溶けた思考がいい感じに固まりだす。
しかもさっきまでの入浴で余計な思考は溶けてなくなってしまった。だから、今頭に残っているのは、私にとって大事なことだけ。
私の頭に残ったものは「友美への謝罪」、それと「私の想い」。
私はここにくるまでに感じていたのは、謝らなきゃっていう使命感と、そこから来る気まずさ。
そして、一秒でも早く謝らなきゃとか、早く想いを伝えなきゃとか、どんな伝え方をしよう、って焦ってしまい、いろいろと普段考えないような余計なことを考えていた。そのせいでここに来るまでは、なんとなく居心地が悪く、ギクシャクした感じになってしまっていた。
でも、先輩の言葉を思い出して強迫感はなくなり、純粋に楽しもうって気分になれた。
そしてここでの友美の姿を見てより変わった。
確かに最初友美はここに来るまで、こんな私にもいつも通り接してくれていて、それが気まずさの一環ではあった。
だけど、ここに来て服を脱ぎメイクも落とした、ありのままの姿で心から楽しんでいる友美を見ていたら、それにつられて私まで心から楽しんでた。そうしたら気まずさもどこかへ行ってしまった。
友美のおかげで、今の私はありのままの私になれた。それにこの寒さで強制的に冷静にさせられたおかげで、それに気づけた。
そして、「私の想い」を遂げるために今の私がやるべきことも。よくよく思い返してみると、私のしなきゃいけないことは、すでに決まってたことだったわけなんだけどね。
それは想いを言葉にして友美に伝えること。
自分の思ってることは形にしなきゃ伝わらない。方法はいろいろあるけど、一番正確にキチンと伝えるためには、言葉が必要だと思うから。
まずは先週の態度を謝る。まあ、上がったら直ぐバスが来ちゃうから、あとで、ってことにはなるけど。そして、「友美と理解し合いたい」っていう、私の想いを遂げる為に、私の思っている本心を包み隠さず言う。
友美があのとき言ってくれた、力を求める理由について分からなかったことを、分からなかったって伝える。それに、友美に自分を大事にしてあげて欲しいって伝える。その上で、友美の想いを聞かせて欲しいってって伝えるんだ。
そのためにに、私は自分の思ってることを頭に浮かんだ通りに言う。何も偽らず、脚色もせず、言葉も整えず、頭に浮かんだそのまんま。
教えてくれた人に対して、教えてくれたけど分かりませんでしたって言うのはどうかと思うけど、でもそれが私の本心なんだから伝えなきゃダメだ。それを言わないのは、相手に自分を理解してもらうのを拒むこと。
「理解し合いたい」って思ってる私がそれをしてしまったら、自分の想いに目を背けてるのと、想いを偽ってるのと、自分の想いに背くのと同じ。
自分の心からの想いに背いたことをせず、それに素直に動くこと。自分が自分でいるために、それが一番大事だと私は思う。生きる上でも、そして戦う上でも。
だから私はこれから友美と話して、想いを言葉で伝える。偽らずありのままの言葉で。
そう決心すると頭も心もスッキリとした。よし、やるぞ! って前向きな気持ちにもなれた。だって、「分かり合いたい」って想いが私の身体を動かしてるんだもん。そりゃ、やる気も出てくる。
さて、そろそろ上がろうかな。約束してる時間もあるし。
そうしてそこから出て時計を見ると、約束の時間まではまだある。でも準備してゆっくり待てばいいやっていう考えが頭によぎり、私はそれに従うことにした。
ありのままの自分の考えそのままに。
待ってると時間になり、友美が降りてくる。その顔はさっきまでのフェロモンメイクとは違い、友美の地が遮られることなく溢れた薄化粧。こっちの友美もいいなぁなんて思いながら、私たちはバスに乗り居酒屋へと向かった。
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