第25話 魅惑のシャワータイム 〜直緒〜

 脱衣所から浴室に入ると、温泉特有の湿度と熱気、ゴボゴボと泡が沸き立つ音、そしてちょこっと聞こえるシャワーの水音が身体に飛び込んでくる。


 見た感じ脱衣所の様子から予想できるとおり、今日はお客さんが少ないみたいだ。シャワーを浴びてる人が数人、湯船に浸かってる人が一人二人といった感じ。

 露天風呂はないみたいだけどその分浴室フロアはかなり広く、パッと見ただけでも色々な湯船がある。


 とりあえずシャワー浴びたいな。身体汚いし。


 そう思ってるのはお互いに同じなんだろう。私たちは無言でシャワーの方へ向かい、先客のいない方に並んで座る。


 この温泉のシャワーは銭湯によくある、隣同士と近くて仕切りがないタイプで、通路の両側に一列ダーっと並んでる川型のシャワー。シャワー一つにつき風呂椅子が一つ置いてあり、風呂桶も一つ。そして、備え付けのボディーソープ、シャンプー、コンディショナー、そして洗顔もできるクレンジングが置いてある。


 銭湯に行くにあたって持ち物に悩んでた私は、ここのホームページを眺めてアメニティにクレンジングがあるのを見つけた。ただ、ここまで立派なやつがあるとは思わなくてちょっと嬉しくなる。

 女性の方も何も持たずお気軽にどうぞ、とホームページに書いてあったけど、あながち嘘じゃないんだね。


 さて、身体を洗おう。ここのシャワーはどんなタイプかな?


 そう思いながらシャワーを見ると、左側には温度調節のカラン、右側には平べったい取っ手。ということは手押し式のシャワーだ。


 個人的にはカランを捻ったらずっと出っ放しのシャワーの方が良かったけど、それだと無駄なお湯が出っ放しになっちゃうし、こういう所はまあしょうがないよね。


 温度調節のカランが40度を指し示してるのを確認して、ちょっとだけ温度を上げる。タイプ関係なしに、温泉のシャワーで気をつけなきゃいけないのは温度調節。


 家で使ってるシャワーの体感で温度を調節すると、大概冷たい思いをしなきゃいけなくなる。かと言って、温度を上げすぎると火傷しそうになるほど熱くなる。だから、ちょうどいいところを探らなきゃいけない。


 今までの経験上、40度をちょっと越えたところに合わせるとちょうどよくなる。


 調節も終わったし、さあ浴びよう。


 意気揚々とお湯を出す取っ手を押して、身体にあったかいお湯がかかる──はずだった。


「ひゃうん!」


 身体に思い切りかかったのは水。使ってないシャワーの最初は冷たい水が出る、ってことを私は完全に忘れていた。


「どっから出たのよ、今の可愛らしい声」


 友美がこっち見て、笑いならが言っている。


 別にただの驚き声なんだけど、今の声が喉のどっから出たかっていう疑問は私も同じだった。


 もう一度シャワーの取っ手押して、恐る恐る温度を確かめる。すると、ちょうどいい温かさになっていて、ホッとする。


 私はシャワーで頭、顔、身体をザッと濡らし、まずクレンジングを手に取る。一方となりの友美は全身を濡らすとこまでは同じだけど、まず髪の毛から洗い出す。


 髪から洗うか、メイクを先に落とすか、この辺は個人の好みだと思う。かく言う私はとりあえずメイクを落としたいってだけで、すっぴんでお風呂に入るなら髪の毛から洗うし。


 肌によくないからあんまりゴシゴシやらないで、クレンジングをなじませるくらいの強さで顔を洗う。おでこ、瞼、鼻、口、頬を適度に擦って、お湯でクレンジングを落とす。置いてあるのがそこそこいいクレンジングだから、綺麗にすっぴんになってる。


 メイクを落として、次は髪の毛。シャンプーを手のひらに出し、頭をゴシゴシ。これも強すぎると頭皮に悪いから、強く擦らずマッサージするように揉む。


 そうしてると、友美が髪を洗い終わり、メイクを落とし始める。お湯で流した所からサッと泡が無くなってるのを見ると、シャンプーの泡切れは良さそう。よく見ると耳にちょこんと泡が流し残ってて、ちょっと可愛らしい。


 顔を洗ってる友美を見ていると、なぜか視線を外すことができず、だんだんと引き込まれていく。位置的に横顔しか見えず、その上両手で顔を擦ってるから全体像は見えないのに。


 友美の鼻は顔を擦る手のひらがあっても余裕をもって見えるほど高い。指先はもちろんのこと、親指の付け根越しにも鼻が見える。その鼻筋は鼻先から付け根までシュッと一本線が通っているみたいに真っ直ぐ。


 視線を少し落とすと、そこは口元。口紅の落ちた唇はぷっくりとした程よい厚みがあって、メイクの力だけじゃない天然の形なんだ、って思い知らされる。

 そして高い鼻先と顎を結んでできるEラインは、友美の顔の上にとても理想的なバランスで存在してる。


 両手が鼻を洗い出すと、隠れていた目元が露わになる。その目は当然閉じられてるわけだけど、鼻の付け根から離れた所から始まる、フサフサのまつ毛が織りなす黒い曲線は、長く引かれていて友美の彫りの深さ、そして目の大きさを表現している。


 クレンジングをお湯で流し、メイクという仮面の下から現れた友美のすっぴんは当然と言えば当然だけど、私の見たことないもの。


 普段の彼女は色気を充分過ぎるほど蓄えた顔をしている。

 しかし、今の彼女の顔には「美しさ」という概念だけが残って、透明感に溢れている。両手から解き放たれた素肌はくすみ一つ無く、耳元にちょこんと洗い残された泡と同じくらい白く、触らずともハリに満ちていることが分かる。


「どした? どっかに泡でも付いてる?」


 あんまりにも顔をジッと見すぎたもんだから、友美に不思議がられる。


「ほら、耳のとこ」

「あ、本当だ。ありがと」


 耳を触り、手についた泡を見て友美が言う。そして、耳元と泡を洗い流し、そのついでにもう一度身体にシャワーを浴びせる。それを見て、私も頭の泡を流し身体を洗い始める。


 友美は隣のシャワーで身体を洗っているから、背中はもちろんのこと前も見えてしまう。私も身体を洗わなきゃいけないからじっと自分の身体だけに集中してたはずだけど、またしても視線が彼女の方へ引っ張られ、その魔力というか誘惑に負けて、失礼だけどチラチラと彼女を見てしまう。


 友美の身体はどこをとっても丸みを帯びていて、とにかく直線やゴツゴツした角がない。ただ、身体を洗うために全身を行き来する両手は指先まで真っ直ぐ伸びていて、椅子から投げ出された足はすらっと伸びている。


 でもそれは骨格レベルの話。その骨を覆う肉と皮膚は緩やかに丸みを帯びた輪郭を描いていて、それでいて無駄なお肉は付いていない。

 お肌は全身もれなく絹のように滑らかで、それでいて顔と同じく透き通るように色白。そして、全身ボディーソープの泡で包まれてるのもあるけど、弾けるように瑞々しい。


 お互い隣同士、ほとんど距離もない状態で座りながら身体を洗っていると、どうしても友美の胸で視線が止まってしまう。


 私よりいく周りも大きい胸はまるでブラでもしてるかのような、お椀型の綺麗な形に保たれ、破裂しそうなほどのハリ。しかしながら、その形のいい胸を洗うために手が行き来するとその手が食い込むようにひしゃげ、動きに合わせてその形を変える。


 視線をそのまま自分の胸に移すと、その差に悲しくなってくる。

 大きさは友美に比べれば全然小さいし、形だってあんなに綺麗じゃない。ただただ普通の胸。


 自分のみすぼらしい胸を見てると、止まってたシャワーの水音が聞こえてくる。音につられてそっちを見ると、友美は身体を流すために立ち上がってる。すると椅子で隠れていたお尻が目に飛び込んでくる。


 さっき脱衣所で見て、そしてここで見て改めて思う。大きくて、でもそれでいてキュッと引き締まった、綺麗なまん丸が二つのお尻。それでいて皮を剥いた桃そのものみたいにプリッとしてる。


 椅子に座りながら自分の尻に手を当てると、やはりその差にガックリくる。

 ひたすらに脂肪を蓄えた、デカイだけのしょーもない尻はデンと椅子に乗っかるだけ。


 ため息ついてその流れのまま、もう一度隣の綺麗な胸と顔と全身をチラッと見る。整った顔、形のいい胸とお尻、美しく伸びる手足、そして絹のように滑らかで白い素肌を見ていると、ルネサンス期の彫刻や絵画を見ているような気分になる。


 それは緻密に計算され、形作られた「美」そのもの。そんな、彫刻や絵画上でしか再現できないような美そのものが、私の目の前にいる。


 そんな、自然の理を超えた美の体現者が私の視線に気づき、ニヤニヤしながら言う。


「どうした? 性欲の全開の男みたいにじっとおっぱい見ちゃって」

「別にそんなことないって」

「いや、絶対そう」

「違うって」

「だって、いやらしー目つきしてたよ。もう、見たいなら言えば見せてあげるのに」


 ほれほれ、と言いながら友美は自慢気に胸を突き出してくる。


「だから違うって。胸も含めて綺麗な身体してるから、羨ましいなって思って」

「直緒も結構いいもの持ってると思うけど?」

「嫌味かな」

「そんなことないって。だって私よりいいもの持ってるじゃん」

「ええっ、そんなとこ無いよ」

「ここだよ、ここ」

「ひぃん」


 友美はそう言いながら、私のお尻を指でつつく。予想してない場所に予想とズレたタイミングで、なんともいやらしくつつかれ、つい変な声が出てしまう。


「私のお尻なんてただデカイだけだよ」

「それがいいのに」

「良くないよ。こんなの」

「あー。だから、ワンピとかロングスカートとか履いてくるのが多いのね」

「あんまり見せたくないし」

「勿体無いよ」


 勿体無いって言われても、隠したいものは隠したい。


「でも、たまに直緒がデニム履いてくるときあるじゃん」

「あれは、着まわしとかコーデの関係で割としょうがなく履いてるだけで」

「てっきり狙ってるかと」

「そんなわけないじゃん!」

「でも、デニムの上からでも分かるくらいのいいお尻に、結構みんな釘付けよ?」

「え、嘘⁈」

「ほんとほんと。私も羨ましくて見ちゃうもん」

「ほんとぉ?」

「男ウケも抜群! だから自信持ってさ、もうちょっとパンツとか履いてもいいんじゃない?」


 別に男ウケは狙ってないんだけどなぁ。ただこんなお尻でも、友美に羨ましく思ってもらえてる、って言ってもらえると嬉しい。


「本当? でも、あんまりパンツ持ってないんだけど……」

「じゃあ、今度買いに行こうよ。アウトレットも近いんだしさ」

「今度行こうね」

「オッケー。さあ、そろそろお風呂入ろっか」


 そう言いながら、友美はヘヤゴムで髪を束ねる。私もゴムで髪を束ね、浴槽に髪が浸からないような形に整える。

 そして、やっぱり美しい後ろ姿に見惚れながら、湯船へと向かう。

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