第15話 頑張る友美を応援したい 〜直緒〜

 お昼休憩のときの学食。そこでは、学生同士の熾烈な座席争いが繰り広げられる。


 特にこの時期、新歓期間が終わって、講義が始まりだすこの時期が、一年の中でもトップクラスに争いが激しくなる。


 どうしてかというと、みんなまだ真面目だから。

 大学という場に染まりきってない、新しく入った一年生は、当たり前だけど真面目に大学に来る。それに加え、真面目に大学に通う上級生はもちろん、大学に染まりきった上級生も、この時期は講義を見極めるために大学に来る。だから、この時期は一年の中でも最も大学に人がいる時期であり、それに伴って学食も混む。


 そんな感じなんだけど、私は今日、友美のおかげで座席争いの勝者になれた。まあ、テーブル席じゃなくて、カウンター席なんだけど。確保してもらってる以上文句は言えないし、カウンター席だからと言って文句もない。


 友美はざるうどん、私は唐揚げ丼を注文し食べている。


「ねぇ、友ちゃん。この前の休みの日、大丈夫だった?」


 食べながら切り出す。今日こうして友美とお昼を一緒に食べてるのはそれについて聞きたかったからだ。


「まぁね。あれくらい楽勝よ」

「凄いねぇ」


 戦いに慣れてるだけのことはある。ニュースでは大規模な出現を感知、なんて言ってたけど、一人でやっつけちゃうなんて。


「でも、なんで?」

「だって、友ちゃんお昼過ぎくらいまで、連絡取れなかったから。何かあったんじゃないって思って」


 私は心配してた。


 その日のことは、その日の夜のニュースには取り上げられていて、それを観て、日付の変わる前から連絡してたけど、友美はお昼過ぎまで沈黙。お昼過ぎには連絡くれたけど、大丈夫の一言。だから、本当は何かあったんじゃないかって、モヤモヤしてた。


「心配しなくても大丈夫って言ったじゃん。次の日は昼まで寝てて、気づけなかっただけだから」

「なら……、いいんだけど。友ちゃん、表には見せないけど、凄い頑張り屋だから、一人だと無理してそうで」

「別に私は、頑張り屋なんかじゃなくて、見た目通りの行き当たりばったりだからさ。にしても、なんでそう思うの?」

「だって、全然勉強してないー、なんて言う割には成績超いいじゃん」

「いや、本当にしてないから。たまたまだよ、たまたま」


 友美は高校のときから、全く勉強しないのに成績のいいギャルがいるらしい、なんて噂されていた。


 その彼女の言うことを鵜呑みにすれば、たまたま成績が良かったって話に聞こえるけど、たまたまなんて事はない。私は知ってる。


 Aコンという、謎の制度があるおかげで、成績を満たした中の上位二十パーセントしかAの成績を取れない我が学部。そんな条件があるこの学部において、たまたまでそんな成績取れるわけがない。


「そんなことないね」

「どうして?」

「だって、試験前に、図書館三階のパーテーションある机のスペースで、髪束ねて、眼鏡して、メチャメチャ勉強してるの見たもん」


 友美が、ゲッ、という感じの表情を浮かべる。


「見られてたのね。あそこあんまり人来ないから、気づかれないと思ったんだけどなぁ」


 そう言って、友美はめっちゃため息をつく。


「そのこと、誰かに言ってないよね?」

 私にググッと詰め寄って聞いてくる。


「言ってないけど……」

「なら良かった」


 私の言葉を聞いて、凄く安心した感じだ。

 でも、どうして勉強してるのを見られるのを気にするんだろう。


「友ちゃんは勉強してるんだから、勉強してないなんて言わずに、勉強してるって言えばいいのに」

「別に、言われるほど勉強してるつもりなんてないし。頑張ってるところなんて、見せるもんでもないでしょ」

「でも、他の人が頑張るところを見てあげないと──」

「私は、頑張ってる過程を知られるよりも、頑張った結果を知らしめればそれでいいの」


 やれやれ、といった感じで、私の言葉を遮り語り出す。


「だってさぁ、私が勉強してるとさ、それ見てみんな、爆笑するか、馬鹿にするか、絶句するかなのよ?」

「どうして?」


 なんで友美は頑張ってるのに、それをちゃんと凄いね、って言ってあげないんだろう。


「私こんな見た目で、スゲー馬鹿っぽいじゃん?」


 そんなことないけどなぁ。


「うーん。どっちかと言えば、遊んでそうって感じ?」

「まあ、それでもいいんだけどさ。それで、明らかに自分より馬鹿っぽくて、遊んでそうな奴が、自分よりメチャメチャ勉強してるの見たら、みんな色々思うんだよ」

「そうなのかなぁ」

「まず、みーんな、メチャびっくりする。それで、人間びっくりし過ぎると、状況の理解を放棄する」

「すると?」

「人間、理解の及ばないものを見ると、凄みを感じる反面、恐れたり、貶したり、理由もなく笑うしかなかったり、馬鹿にしたり、否定する」

「えぇ……」


 勉強してるだけなのに、友美は物凄い扱いを受けてきたらしい。


「しょーがないよ、人間の本能みたいなもんなんだしさ」

「人間の本能?」

「そそ。周りの人にしてみれば、勉強してる私は幽霊とか、妖怪と同列ってわけ。笑っちゃうよね」


 友美は笑いながら言ってるけど、でもそれって、酷いと思う。


「それは酷くない?」

「だから、本能的な感情だからしょうがないんだって。まあ、大学入っても状況変わらないとは思わなかったけど、もう慣れたし」

「慣れたって言っても、辛いんじゃないの?」

「辛くはないよ。どっちかと言えば、毎回その反応されて一々相手するのが怠いだけ。だから、見せつけるのは、努力の結果だけでいいの」


 それに、と言って付け加える。


「試験範囲と時間の兼ね合いがある以上、全然満足に勉強できてないから、勉強してない、って言う部分もあるわけだし」


 そっちは、頭いい人特有の自己的満足度のマックスから見て、全然勉強してないってやつ。いつでもフルパワーで勉強して平均ちょい上の私からしてみれば、一度でいいからそんなこと言ってみたい。


 友美はこの話題、ずーっと、気にしてないという感じで、終始笑いながら話してる。その表情からは、清々しさすら感じる。ただ、そう言う友美の口元についてる、春らしい口紅の色だけが鮮やかに、際立って見えた気がした。


「それに、直緒もそういう、頑張った結果を見て欲しい、ってときあるんじゃないの?」


 私にそんなとき? どんなときだろう。


「どうして?」

「頑張った結果を褒めて欲しいときなんかは、その過程は評価されたくないものよ」

「結果を褒めて欲しいとき?」


 どう言うときか説明されたけど、まだ、いまいちピンとこない。


「この前勧めてあげたコスメ、優斗さんにいいって言ってもらえたんでしょ?」

「うん! かなり高評価だったよ。選んでくれて、本当ありがとう」

「それだよ、それ。デートで普段と違う自分の姿を褒めて欲しいから、頑張ってメイクする。でもそこで言って欲しいのは、メイク頑張ったね、ってことじゃないんじゃない?」

「確かに。ちょっとは、メイク頑張ったね、って言って欲しい気持ちもあるけど、本当に言われたかったのそうじゃないね。」


 普段はそんなの意識したことなかったけど、言われてみれば確かにそうだ。


「でしょ? それが頑張った姿を見て欲しいとき。まあ、今のは一例でどんなときか、ってのは結局その人次第なんだけど」


 その人次第。一人一人が違う考えを持っている以上、その言葉が心理。相手が自分に対してどんな想いを抱いてるか、本当のところを知るのは難しい。だから、他人と分かり合うって難しいんだ。


 だからこそ、友人として、共に戦う仲間として、友美のことはもっとよく分かっていたい。


「でも、私は友ちゃんの頑張りとか努力してるとこ、ちゃんと見ててあげるし、認めてあげるよ」

「私としては、その辺あんまり見てて欲しくないんですけど?」


 友美は歓迎してないトーンで答える。


「確かに友ちゃんの言う通り、評価されたくない頑張りもあるけれど、その逆に評価してあげなきゃいけない頑張りだって、私はあると思う」

「してあげなきゃいけない頑張りねぇ」


 友美は、どこか遠くを見つめながら言う。


「それに、私たちは共に戦う仲間でありながら、友達なんだよ? だったら、図書館で見ちゃった相方のあの姿、認めないわけにはいかないじゃん」

「それ、見なかったことに──」

「しない」

「ケチ」


 あのことはなんと言われようと、見なかったことにはしないつもり。だって、友美の素顔の一部が見えたんだもの。


 ちょっと考え込んで、ため息をつきながら友美が言う。


「分かった。勉強してるの見た、ってこと誰にも言わないなら、それでいいよ」

「言わない言わない。来世まで持ってく」

「絶対ムリでしょ。ていうか、来世までって何よ?」

「墓まで持ってくよりも、誰にも言わないって感じ?」」

「あのねぇ、死人に口なしだから、墓まで持ってくっていう言い回しがあるわけで、来世に持っていったら、そっちで喋っちゃうじゃない」


 自分で考えた結構自信ある言い回しだったけど、確かにお墓で止めないと喋れるからダメじゃん。


「あっ。いや、来世の墓まで持ってくから!」

「んな無茶な……」

「いや、できる!」


 そのあとも、できる、できないっていう不毛な問答は続いた。


 全く勉強しないくせに成績のいいギャル。私の高校で流れてた、彼女の噂の真実は、頑張り屋さんが、完璧に頑張り続けた結果、ってことだった。


 ただ、そんな人が大学で、こんな馬鹿みたいな言い合いしてるとは、一体誰が想像したことだろう。

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