第14話 誰にも言えない休日の私 〜友美〜

 空腹に耐えかねて目を醒ますと、時刻はお昼の一時前。カーテンの隙間からさんさんと日差しが差し込んできている。


 昨日は痛みに耐えながらなんとか家に帰り、そのまま自室に直行し、メイクだけは頑張って落として、そのままベッドにダイブ、そして寝た。というか、寝ようとした。

 ただ、痛みが気になりすぎてまともに寝られたもんじゃなく、どうやったら痛みを軽減できるかを延々と試行錯誤してた。とりあえず、寝巻きに着替えたけど寝られず、下着だけになったけどダメ、下着も脱ごうかと思ったけど、それは流石にやめた。


 結局、下着だけ着けて、掛け布団を掛けずに横になるというのが一番マシだった。それでも、まだヒリヒリして眠れそうになかったから、お気に入りの動画を見て、無理やり意識を紛らわせ、寝落ち。


 力技ここに極まれりといった感じ。そのおかげで、こんな時間に起きるハメになったわけだ。


 起き上がり、寝相のせいですっ飛んだスマホに手を伸ばす。意外にも、全身をチクチク刺すような痛みは、綺麗に抜けていた。


 まさか、あれだけのダメージが一日で抜けるとは思わずに、ちょっと驚く。ただ、手はまだヒリヒリするけど。


 あー、やっぱり。予想通り、昨日の夜から今にかけてのラインの通知が、そこそこ溜まってる。ザッと目を通して、返せなかった言い訳を考えつつ、必要なところに適当に返す。

 直緒からも通知がきてる。


『ニュース見たけど、友美の家の方で憎念出たんだって? 大丈夫?』


 やっぱり、話題の報道って早いわ。ただ、直緒の言いぶりからすると、私が戦ってたところの映像はなさそう。


 それならよかった。割と適当に変身して、適当に解除してたから、ワンチャンその様子が映ってるかもしれなかった。でも、それなら心配はいらない。


『大丈夫。なんとかなったから。心配しないで。』


 そう直緒に返して、返信だいたい終わり。


 しかし、寝すぎ。でも、今日予定入れてなくてよかったわ。

 今日はサークルの新歓の仕事も終わり、バイトもなく、男もいないから予定もない、久々の本当になんもない休日。


 何をしようか考えてたとき、ふと部屋の姿見越しに自分を見て思う。


 着替えよ。


 痛みに苦労してたとはいえ、寝相も相まってできあがったこの格好は酷い。色々ズレてるし。

 でも昨日、無意識でもカーテンを閉めていたことは褒めたい。自室とはいえこの格好はカーテンが閉まってたからまだいいものの、開いてたら完全に変態だわ。そういう趣味はないし。


 じゃあ、着替えるついでにシャワー浴びるか。


 昨日部屋に脱ぎ捨てた服と、替えの下着と、部屋着を持って、下の階の洗面所兼、脱衣所に向かう。移動する間、家に人の気配はない。


 そういえば、両親今日出かけるとかなんとか言ってたなぁ。じゃあ、当分は私一人ね。


 洗濯カゴに洗う物を突っ込み、タオルをおろして、シャワーを浴び始める。


 はぁぁ、あったかぁ。気持ちいい。ずっと、こうしていたいくらいだわ。


 でも、本当に痛みも抜けてるし、身体中見回しても傷は残ってない。昨日あんだけ痛がってたとは思えない。


 ただ、一番負担をかけた両腕は、シャワーが当たると痛い。でも、肌は傷もなく、綺麗なもんで、この分だと明日には痛みも抜けるでしょう。


 でも、この手でどうやって髪の毛洗おうか。……。我慢しよう。


 私は両腕からの悲鳴に耳を閉ざしながら髪を洗い、そのまま身体も洗う。いつもより少し雑だけど、まあしょうがない。適当にシャワーを終わらせる。


 そのまま、雑に髪の水気を切って、身体を拭く。浴室から上がり、着替えて、髪をタオルでゴシゴシして、ドライヤーで乾かす。


 次は……、何しよう。


 ドライヤーをかけながら考える。

 ラインは返したし、シャワーも浴びた。あっ、そうだ。空腹で起きたんだった。完全に忘れてた。


 次にすることも決まり、ドライヤーもかけ終わった。そんな私は、リビングへと向かう。


 そこはもう昼過ぎだというのに暗く、人気もなかった。まあ、状況考えれば当たり前なんだけど。


 電気をつけ、テーブルの上にメモ書きを見つける。なになに。


『昨日のカレーが鍋に残ってます。ご飯は冷蔵庫にあるから、食べるなら火にかけるか、チンして食べて。お母さんたち夕飯までには帰ります。バイトで夜要らなかったり外食するなら連絡ちょうだい。』


 メールでよくない? まあ、いいや。


 書き置きのとおり、鍋を火にかけながら、タッパーに入ったご飯をレンジにかける。皿は書き置きの隣に用意してもらったのを使えばいいから、それを持ってきてと。カレーが煮立ってグツグツ言い始めたから、焦げないようにお玉で混ぜつつ、あったまったご飯をレンジから皿に移す。あとは、カレーを好きな量かければ、作り置きのカレーの完成だ。

 それを食卓に持っていき、いただきますして、食べながらリモコンでテレビを点ける。


「憎念が出現し、通報により警察の憎念対策処理班が出動しました。発表では死傷者は共にゼロ。しかしながら、警察によりますと、憎念の活動痕跡は見られたものの、肝心の憎念が見当たらなかったとのことで、警察は情報提供を求めてる、とのことです」


 別に直緒のことを疑っていたわけではないけど、本当にニュースになってるもんね。おおよそ、対策班は、私が離れた後に現場に駆けつけたらしい。


「次のニュースです。昨日、東京都某区で、都内の大学に通う女子大生が何者かに暴行を受け……」


  最近は憎念とは別に治安も悪い。このニュースで言ってるように、女子大生が暴行を受ける事件が多い。


「女子大生の帰宅途中を狙った犯行だと思われますが、犯人は依然として捕まらず、目撃者によりますと、二人は互いにコスプレのような装甲を着ていたとのことです」


 ……ん? 今のニュース、明らかにオモイビト同士の戦いだ。でも、私たちの敵は憎念であってオモイビトではないはず。じゃあ、何が原因なの?


 でも、考えたところで分からない。答えが出ない問題を思案しててもしょうがないから、録画を消化しようと思い立ち、画面を録画メニューに移す。


 まずは、今週分のプリエイドを観なくちゃ。グリグリとカーソルを合わせ、今週のプリエイドを再生する。

 プリエイドとは、日曜の朝に放映してる、小さな女の子はほぼ全員観ている、国民的女児向けアニメ。プリエイドを観た女の子は、彼女たちに憧れて、そうなれると夢を見る。


 リアルタイムで初代にハマり、そっからずっと観続けている。私も幼い頃に、彼女たちのようになりたいと夢見た少女の一人。


 十六作目の今回のタイトルは『スマイルフレンド! プリエイド』で、『紡いだ絆は明日を繋ぐ!』というキャッチコピー。


「スマイルフレンド! プリエイド。この後すぐ!」


 主人公のこころ、ゆい、えり、の三人が変身した姿と、『この後すぐ!』というテロップが映る、毎週同じの代わり映えのしない予告。でも観てしまう。


 そんな不思議な魅力のある予告の後のCMを飛ばしてオープニング。もう八話ちょいやってて、オープニングも覚えたけど、観てしまう。

 オープニングが終わり、サブタイトルが流れ本編が始まる。


 シリーズの始まりから観続けてきた私は、前の週の次回予告、サブタイトル、そして冒頭の展開を見ると、その話の流れと展開が大体分かるようになってしまった。


 一話一話の作りは王道の勧善懲悪型。主人公たちの日常生活から始まり、その途中で敵が怪人とかを使って主人公たちや町の人を襲う。そして、主人公たちが変身して怪人や敵を倒し、平和が戻ってくる。そんな感じ。

  だから、敵がつけこんで来そうな部分、つまり問題が起こりそうなところとか、襲いかかってくるタイミングとか、変身してやっつけるタイミングとかを長年の経験から察してしまう。


 でも、話はそう純粋に終わらない。毎回そうなら十六シリーズも続いてない。プリエイドの人気の秘密、それはストーリーにあるちょっとした捻り。


 敵が目をつけた問題点の発端が主人公サイドにあって、その反省から成長したりする人間ドラマ。

 守るべき町の人が悪かったり、迫り来る脅威を主人公たちと敵が協力して退けたりする、悪って何だろうという視聴者への問いかけ。


 プリエイドは大まかなストーリー通じて小さな子に「大事なこと、大事なメッセージ」を教える説話的な側面もあるけど、捻りの部分には大人も考えさせられるようなこともある。


 その捻りがあるからこそ女児向けだけど、こんなおばさんも面白いと思って観てられる。シリーズにもよるけど。


 話もそろそろ、主人公たちが変身しだす頃。やっぱり変身シーンは初見だろうが、バンクだろうがワクワクする。

 遂にその瞬間。主人公たちが声を揃えて叫ぶ。


「プリエイド、チェンジング!」


 そして個々の変身バンクへ。それぞれが可愛く、かっこよく変身してゆく。

 まず、こころちゃんの口上。


「繋いだ心は負けない力! プリハート!」


 次にゆいちゃんがクールな感じで口上を言う。


「みんなを結ぶは解けない蝶々! プリリボン!」


 そして、えりちゃんが元気いっぱいに口上を叫ぶ。


「この世の全てをキュっと纏める! プリバンド!」


 三人それぞれの口上も、集合ポーズもビシッと決まる。まあバンクだからだけど。


 だとしても、今シリーズの変身バンクはカッコいいなぁ。衣装もフリフリで可愛いし。配色はちょっと男の子向けかなって思ったけど、話を観ると主人公たちのイメージに合っているなって思う。


「さあみんな、いくよ!」


 こころちゃん、プリハートがみんなを引っ張って駆け出す。そして、三人で雑魚敵をバッタバッタと倒してゆく。

 その様子に段々と焦り始める怪人。そして、配下の雑魚が全滅。


 慌てふためく怪人に、三人のキリッとした目元のカットイン。


「後はあなただけね!」


 声を揃えて走り出し、必殺技!


 プリリボンが怪人を縛り、プリバンドがみんなや自然のエネルギーをキュッと纏めて、ハートにトス!

 そして、プリハートがアタック!


「プリトリニティアタック!!」


 こうして怪人は倒され、今週も平和に終わる。


 そして、本編が終わりエンディングが流れだす。ここも、なんでかちゃんと観ちゃうんだよね。

 そのあと流れる、次回予告もキッチリ観て、今週分のプリエイドが終わる。

 来週も楽しみだなって思うところで、何も無い私の休日が始まる。


 プリエイド。彼女たちは敵に負けかけることはあっても、絶対に屈しない。愛と正義を貫き最終的には絶対に勝つ。


 みんなを守る力を持った、愛と正義のヒロイン。


 そんな彼女たちを、彼女たちが持つその力を羨ましく思う。


 幼女向けアニメを観て、その主人公たちの活躍に一喜一憂する。これが、誰にも言えない休日の私。

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