第13話 想い、燃やすわ! 〜友美〜

 拳を握りしめ、一番近くにいる実体の元へ走る。そして、握った拳を大きく振りかぶり、走る勢いと体重を思いっきり乗せ、ソイツの頭をフルスイングでブン殴る。


「うらっ!」


 炎を纏った身体から繰り出される拳は破壊力を増し、勢いを乗せたこともあり、殴られた奴は跡形もなく砕け散る。


 そして、それを皮切りに、その周りにいる雑魚どもを、続けて殴りまくる。一発当てるごとに、一体消える。埒があかないように感じるが、それならそれで手数を増やしゃいい。それが一番手っ取り早いから。

 ただただ、目の前の雑魚を拳で殴り伏せる。


 その最中、ガラ空きな背中に、ズシンとくる。

 痛っ。


「痛ったいわね!!」


 勢いに任せて、思い切り裏拳をブチかます。手の甲にヒットの感触があり、綺麗に決まったらしい。ざまぁみやがれっての。

 その勢いのまま左足を蹴り上げ、裏拳のついでに目の前の奴を倒す。更に、そのまま足を振り下ろし、ヘッドバッドを決めてやる。頭に力を集中させたおかけで、インパクトの瞬間、周囲に炎が伝わる。その炎に触れた雑魚は軒並み消滅した。


 体制を立て直すと、後ろからまとまった数が襲いかかってくる。そいつらを倒すため、刀を力に任せて思い切り振り抜く。刃の入りは甘かったが、無理やり振り抜いたおかけで、ちゃんとまとめて斬りとばす。


 ただ、その脇をすり抜けて雑魚が左右両方から間合いに入ってくる。左側のヤツの方が一瞬早かったから、持っていた刀の柄で頭部をカチ割り、右のヤツに後ろ蹴りをお見舞いする。


 そんなこんなで戦ううちに、少しずつ数は減ってきたけど、先はまだまだ長い。


 ほら、友美、頑張らないと。こんなとこで、へばってるようじゃダメ。有り余ってる熱意を、振り絞って力に変なさい! そうすりゃ、なんとかなるはずよ。


 自分を鼓舞するため、さっきからやってたけど、それ以上に大きな声で叫びながら、雑魚どもを蹴り、殴る。


 だけど、雑魚どももただ黙って殴られ続ける、というわけにはいかないらしい。私が攻撃しているときに、他のところにいるやつが攻撃してきたり、致命の一撃を入れてるにも関わらず、最後っ屁を浴びせてくるヤツもいる。これがそこそこ痛い。


 でも、こんな攻撃、気にしてたら負ける。攻撃された程度で動作を止めるな。その動作を引き継ぐヤツは、ここにいないんだから。痛みをバネに、力を振るえ。そして、ひたすら前に進み続けるのよ。雑魚どもを全て蹴散らすまで。


 気を引き締め直し、ただただ殴る、蹴る。ガードが間に合わない攻撃は、身体で受け止め、反撃を喰らわせる。必要があれば刀も振るう。手も足も塞がってれば頭だってぶつけてやる。


 私の身体は思考を挟む暇なく、熱意が動かしている。きっと、心に満たされた想いが、コントロールできる範疇を超えてしまってるせい。


 だけど、今はそれでいい。この場をなんとかするためには、衝動に身を委ね、動き続けるしかない。それが、この場における最適解なのだ。


 一瞬取り戻した冷静さに、熱意で蓋をする。そんなことを考えていては、純粋に火力が下がる。


「ッシャアァァァ!」


 雄叫びをあげ、心の炎に風を送る。想いを燃やし続けろ。


「さてと」


 いい感じに身体に炎が戻ってきたので、おもむろに銃を抜く。確かに、両手に銃を構えてしまうと、近接戦闘は難しくなるけど、範囲制圧するにはこっちのがいい。それに、銃床だって立派な武器になる。


 目の前にやってくる二体の頭部を、炎を纏わせた銃の銃床で殴りつけて消滅させる。その後ろからくる一体の腹部に、足裏で踏み抜くように前蹴り。周りを巻き込みながら、大きく仰け反らせ消滅させる。


「行くぜ!!」


 そう叫び、目の前の雑魚どもに向かって銃を乱射する。狙いなんてつけないで、とにかく引き金を引けるだけ引く。


 そのおかげで半分ほどしか命中しないけど、当たりゃいいのよ、当たりゃ! 下手な鉄砲もなんとやら!それに、さっきより威力が強いから、着弾すれば爆発するし。それで二、三体巻き込むんだから、倒した数は打った数と同じ、もしくはそれ以上。それ以下なんて事はない。


 今の射撃で数はだいぶ減り、一撃での全滅も視野に入る数になった。


 一撃でやれるってんなら、やるしかないわね。


 構えていた銃を一丁しまい、両手で一丁を構える。そして、今ある全ての炎の力を込められるだけ、構えてる銃に込める。そして、そのまま込め続ける。

 かなりの量の炎の力を込めたがまだ足りない。もっと、心を燃やして火力を出さなければ。


 雑魚どもを意地でも倒すと、心に強く想い、熱意を高める。


 くっ。


 熱意が高まって、火力も上がってるけど、そのせいで全身が焼けるように熱い。でも、これが自分の強さの証明なんだ。全身で燃え滾る炎を銃の方へ集める。

 両手を通して、銃に力を込めるから、身体の末端が冷めてくるのと反比例して、両手が熱く感じられる。熱さに耐えかね、銃を落としそうになる。


 おい! 友美。ここで落としたら、お前は雑魚どもを倒せない。ここで引く程度の力しかないのなら、誰も守れないんだ。


 そう自分に言い聞かせ、必死に銃を支える。そして遂に、焼けるような熱さを耐え抜き今のありったけの炎の力を銃に込めることができた。


 さあ、行くわよ。


「バーニングフルバースト!!」


 そう叫びながら、引き金を引き、一気に力を解放する。その反動に身体が耐えきれず、後方に大きく吹き飛ばされる。


 私はそのまま、仰向けにアスファルトに叩きつけられる。首を少し上げて見ると、放たれた力は、極太のビーム状になり目の前の雑魚どもを全て焼却した。


 それを見て、さっきと同じ轍を踏まないように、憎念の気配に気を配る。しかし、憎念の気配は完全にない。

 つまり終わったのだ。とりあえず、今日この場は一人で全て終わらせられたようだ。


 全身が焼けているかのような痛みに耐えながら、ヨロヨロと立ち上がり、そして誰にもバレないように急いで、この場を立ち去る。歩みも痛みでフラフラになりながら。


 近くの森の茂みに入り、周囲に誰もいないことを確認し、変化を解く。その瞬間、抑えられていた痛みが全身に襲いかかり、私は痛みに耐えかねその場に倒れそうになる。


 全身の肌が触れるもの全てを否定する。下着、ブラ、シャツ、パンツ、靴下が触れるたび、そして両手に至っては何も触れていなくとも、肌がヒリヒリと悲鳴をあげる。見た目上身体に変化はないが、感覚的にはしっかりとダメージを受けている。


 これが、私が懸念していた属性の力を直接身体に纏うことに対するリスクだ。

 私がストックしている属性を直接身体に纏うと、その属性に応じて様々な恩恵を得られる。身体機能の強化や、普段できないような特殊な行動ができるようになったりする。さっきまでの炎であれば、純粋に火力が上昇したり、燃えたりというように。

 しかしながら、その属性の力は私の身体を蝕む。纏う属性の力が強くなればなるほど、そして纏っている時間が長ければ長いほど、強く私を蝕む。だから炎を纏っていた私は、全身に重度の日焼けや、火傷を負ったようなダメージを受けているわけだ。


 即ち、これは諸刃の剣。闇雲に振るえば相手と自分に刃が食い込む。


 ただ、今回は変身を解除してもまだ立ってられた。前は立てずにのたうちまわっていたのに、今は立っている。

 だから、この反動は私の力に伴って、だんだんと減っていくのではないだろうか。それに炎の力だって、以前に比べれば、格段に強まっているし、長い時間纏えていた。


 ということは、私は前よりも強くなっているってことだ。

 やはり、このやり方は間違っていない。この道を歩み続ければ、全てを守り抜く強さ、それにたどり着くはずだ。


 だから、もっと頑張らないと。


 強く心に誓い直し、「頑張る」ということをずっと反芻しながら、家に帰った。そうしていなければ、全身の痛みでまともに歩くことすらできなかった。

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