第12話 開戦 〜友美〜

 大学からの帰り道、電車を乗り継ぎ、調子が良ければ一時間半、乗り継ぎが悪ければ二時間。登下校にすら労力を使うが、一年通ってもう慣れた。


 慣れた、と言っても不満が無くなる訳ではない。


「めんどくさ」


 こうして独り言でも呟いて、発散しないとパンクする。


 乗換駅に着き、最後の路線に乗り換える。だいたいいつも、この電車でようやく席に座ることができるけど、五分も経たないで私の最寄り駅に着いてしまう。でも、そのたった五分の癒しために、私は毎回座る。今日も例に漏れずに。


 スマホを視界に入れながら、今日の出来事を振り返る。


 デートかあ。


 思い出したのは、直緒のデートの話題。話を聞いてたときは、アレをデートと呼んでいいものかと思ってたけど、思い返せばアレも立派なデートなんだろう。

 恋人同士が仲良く出かけ、お互い楽しんで帰ってくる。多分、それがデートの本質なんだ。この歳になると、どこに行った、何をした、そんなことばっかりに気がいってしまう。


 でも、私が好きなヒロインは、そんなの気にしてなかったな。それこそ直緒みたいに、恋人と一緒なら何しても楽しい、なんて言ってるしね。


 ただ、直緒は現実で、しかも本気でそう言ってるから、そこにつけ込まれていつか危ない目に遭いそうで、ちょこっとだけ心配している。

 直緒は何もされてないなんて言ってるけど、絶対なにかされてそう。……。ダメだ、その発想に至ってしまうほど、私の心は汚れきってしまっている。


 しかし、そういうデートを最後にしたのはいつだったか。それに、最後に直緒みたいな、純粋な気持ちで恋をしたのはいつだろう。今すぐにはちょっと思い出せそうもない。


 私がこの力に目覚めてから、他人を守れるだけの強さを求め続けてきた。そして、私の力の本質に気づいたときから、力を得るために適当に良さそうな男を引っ掛けて、速攻で別れる、ということを繰り返している。

 そのためなら、自分のプロポーションだって武器にしてる。強調すべき所を強調しアピールする。メイクや髪型だって、男が好きな方へと寄せている。使える物はなんでも使う。力のためなら、そういう努力を惜しまかった。


 ただ、その手段として肉体関係を持つということはしなかった。別にヤッたところで、相手への恋愛感情が増すわけではないだろう。好きと思えるかどうか、それが大事なんだから。


 好きな男を取っ替え引っ替えする。それが、力を手に入れるにあたって、一番効率が良かった。その方法が他人を守る強さ、それを得ることに繋がる。


 もっぱら最近は無駄に増やしすぎた力を整理するため、恋愛自体控えてはいるけど。お金もかかるし。


 いつから他人を守れるだけの強さを、求め始めたかは覚えていない。というより、思い出せない。多分、色々し過ぎたせいで、忘れてしまったのだろう。でも、そこは気にしていない。


 大事なのは、他人を守るという使命を自覚していること。そして、憎念に襲われている人々や仲間を、全て守りきれるだけの強い自分であること。これを成し遂げられればそれでいい。


 陰で尻軽女だの、ビッチだの、クソアマだの呼ばれているが、別に構わない。実際、そうなのだから。なにも知らぬ奴らには、好きに呼ばせておけばいい。

 この方法で強くなると決めたときから、そう言われるのは承知の上。自分の名誉を犠牲にしようが構わない。だって、他人からどう思われようが、自分が本当のことを理解していればそれでいい。


 結局のところ、私が直緒のようなデートをできてないのは、私の自業自得であり、それを羨むのは間違っているってわけだ。別に考えを改めることもしない。直緒は直緒、私は私、それでいい。


 電車が最寄り駅に着き、ようやく長旅が終わる。ホームに降り立ち、凝った体をほぐすために伸びをする。


 そのとき、心の中に黒いモヤモヤというか、ざわめきを感じる。憎念が出現したのだ。ただ、ここはもう直緒の感知範囲外。つまり一人でやるしかない。

 と言っても、なにも困ることはない。今までもそうだったし、これくらい一人でできなきゃ誰も守ることができない。


「やってやろうじゃない」


 気合いを入れ、改札から出る。そして、大急ぎで憎念の発生場所へ向かった。



 現場へ向かってみると、見えてくるのはそこそこの量の憎念実体。一人では苦戦しそうな量だが、これくらいできない者が他人を守れるわけがない。


 走りながら、周囲を確認する。この辺は駅前から少し離れ、路地を一本入った住宅街。見渡し、私を見てる人がいないと判断し、足を止める。急いでるのにも関わらず。


 なんでかっていえば変身ポーズをとるため。本当はしなくてもいいんだけど、やっぱりした方が気持ちがアガる。


 ハート型の光を放つ胸の中心へ左手を当てる。次に、目の前にあるものをかき集めるように右手を胸の中心に持っていき、そのまま両手でハートを作る。そして、そのハートを保ったまま両手を突き出し、自分自身を抱きしめるように両手を両肩に当てる。


 そして叫ぶ。


「情愛変化!」


 その瞬間光が私の身体を包み込み、全身に力を纏い終える。


 私の変化に気づき、実体どもが一斉にこちらに振り向く。あれだけの量だ。馬鹿正直にこのまま走っていけば、押し返されてしまう。


 ならば!


 目の前の空を見上げる。電線とかの障害物は何もない。よし、いける!


 私は走りながら両手に、力で出来た拳銃を持つ。トリガーにはまだ指をかけるな。


 押し寄せてくる先頭集団との距離を図りつつ、タイミングを図る。


「ハァァッ!!!」


 両手の銃を正面に構え、思い切りジャンプするとともに、声を張り上げる。そして、実体たちの頭上から、エネルギーの続く限り乱れ撃つ。


 空中にいる間に放たれた想いの弾丸は、全弾実体に命中。これだけ的が多ければ、適当に撃っても大体当たるけど。


 目の前に地面が迫り、受け身をとって着地する。上手いこと実体のいない所に着地できて、隙を狩られずにすんだ。


 先制攻撃がうまいこと決まり、とりあえず流れは掴んだ。


 ただ、周囲に実体がいないとはいえ、そろそろ銃の対応限界を超える。


両手に持ってる銃をしまい、背中に背負っている刀に持ち替える。


 持久戦になれば、不利なのはこちらだ。一気に決めよう。


 私は想いを込めて、刀身を撫でる。そして、刀身が炎を纏う。


 この炎が、私の愛の記憶、即ちストックしている私の力の一つ。心の中の燃え盛る想いを具現化させ炎とし、この刀やさっきの銃に纏わせて文字通り火力を上げる。


 これが私の力であり、戦い方だ。私は愛の記憶の分だけ、他にも様々な力を有している。それらを状況に応じて使い分け、使いこなし、現状を打破する。


 ただ、現段階では属性を纏うと力の消耗が激しく、長期戦に向かない。

 そして、今回は密集度が高く、軽やかな身のこなしより、力によるゴリ押しが良さそうだから、炎を選んだ。


 刀に炎を纏わせ終わり、刀を両手で構え直す。実体たちがこちらに向かってくるが、速度は均一というわけではなく、バラバラに走ってくる。とりあえずやることは、先駆けたちを一気に切り倒し、後続に備えること。


 先頭の実体とあいまみえ、刀を振るう。斬った手応えなく、実体は真っ二つになり、消滅する。


 その後も、やってくる実体に合わせて、刃を振るう。一振りするごとに刀身からは炎が迸り、刃の破壊力を上げると同時に、その後ろにいる実体までも焼いてゆく。


 気分もノってていい火力がでてる。今日は調子がいい。さあ、楽しくなってきた。


 調子に乗って、走りながら刀を振るう。炎による火力上昇のおかげで、一振りでまとめて四、五体倒せるものの、思いのほか力の消耗が激しい。調子に乗りすぎたことを反省し、普通に、おとなしめに戦う。


 力を刀に集中させるため、無駄な力を抑える。より多くの数を倒せる方に刀を振り、実体の攻撃を必要最小限に躱し、余計なことを考えず目の前の実体を切り伏せることだけを考える。

 余計な想いを捨て去り、斬るという想いだけに集中することで、刃の切れ味や、破壊力も増す。


 攻撃は最大の防御。本隊がやって来始め、処理が追いつかなくなりそうになるも、自らをその想いに染めきり、防御すらかなぐり捨て、ひたすら斬り続ける。


 考えが染まり上がると、行動もそれに最適化されてゆく。意識しなくとも、自然と何をすべきか、どう動くべきかが分かる。想いが身体を動かしているのだ。


 その衝動に身を任せ、ひたすら斬り倒す。そこに、流派や型は存在しない。呼ぶとすれば、がむしゃら。その言葉がぴったりだろう。

 ただ、どれだけがむしゃらに動こうとも、疲れはしない。もはや私の頭は、疲れというものを忘れている。頭が疲れを思い出すまで、いくらだってメチャクチャに実体を斬り続けられるだろう。


 刃の軌跡に炎が走る。その様子は、私の動きのがむしゃらさと相まって、側から見たらリボンの競技のように見えるかも知れない。本当のところ、他の人にどう見えてるのかは知らんけど。


 踊るように実体を斬り続ける。そして、刀の熱気にあてられ、だんだんと私もヒートアップする。合わせて踊る無音の曲のBPMも上がっていき、超ハイテンポになり、「斬撃」というダンスの表現には、手だけでは足りなくなり、足で刀を掴み斬りつけることも求められ、私はそれに応じる。


 このステージは私の独壇場になり、実体たちはギャラリーとして距離を置いて、周りに存在するのみとなった。


 その様子を見て、決めろ! という衝動が湧き上がる。


 私はその衝動に身を任せ、少し後ろに距離をとり、刀に炎の力を思い切り込める。普段なら繰り出すことを躊躇するだろうが、今なら大丈夫だと心が言っている。その想いに身を任せ、刀を振るい、力を一気に解放する。


「業火飛斬撃!!」


 瞬間、刃の軌跡に走った炎が直線上に飛んで行く。その飛行する斬撃に、巻き込まれた実体は跡形もなく消滅する。斬撃は二十メートルほど飛び、実体を蹴散らす。


 そして、すかさず二丁拳銃に持ち替え、炎を込める。斬撃を免れた、脇にいる憎念たちを全滅させられるだけの力を。


 必要分に達した。あとはどれだけ引き金を引けるか。


「うらうらうらうらうらぁ!!」


 引き金をとにかく引き続ける。その分だけ銃が、文字通り火を噴き、実体たちを撃ち抜く。打つたびに少しずつ照準をずらし、一発も無駄にしないように、撃ち続ける。


 銃に込めた力が底を尽きたとき、ちょうど目の前の実体たちも綺麗さっぱり消え去った。


「ふぅ」


 やりきって、一息つき、銃を戻す。


 一息ついて意識を緩めると同時に、力を急激に使いすぎた反動で、少しフラッとくる。軽い立ちくらみみたいなもので、少し落ち着けば元に戻る。だから、そんなに心配することはない。


 何にも意識を向けず、ちょっとその場でぼーっとする。上を向き、目をつぶり、ダラリと両手を投げ出すように力を抜く。自らを支える力を失った腕は、少し重く感じる。


 とそのとき、急激に右腕が重くなる。今はちょっと重いな、って感じていたけど、その比じゃない。


 イタタタタ! か、肩が抜ける! 肩の関節がミシミシと悲鳴を上げてる。


 そして同時に、心に圧力がかかるのを感じる。直接触られているのは肩なのに、胸にダンベルのような重りを乗せられて、潰れてしまいそうになる感じの鈍い痛みや、息苦しさ。


 間違いない。そう思って目を開けると、やはり憎念実体が右腕を掴んでいた。


 くそッ。さっきまでいなかったのに、どっから出やがった。とりあえず、早いとこ引きずり剥がさなければ。そう思って、実体の方に向き直り、絶句する。


 そこにはまたしても、大量の実体がいた。量的には先程の半分程度ではあるが、それでも多い。しかも、さっきと違って、一体に腕を掴まれてしまうほど集団が近い。


 それに対し、私は銃での対処を試みる。


 私の力の基礎は、銃撃や剣撃に優れている反面、何も持たない素手での格闘は、それらに比べてかなり劣る。そして、右腕を掴まれているなら、尚更格闘はダメだ。

 そう思って銃を選んだ。ただ、それが良くなかった。


 左手が銃を取るよりも早く、実体が私の腕を掴む。そして、先程と同じ痛みが腕と心に襲いかかる。

 そして、それに続いて実体たちが、身体のあちこちににしがみついてくる。背中、腰、腹、胸、両足、首、頭に至る隅々まで。


「グアァァァァァッ!!!」


 実体がしがみついてくるに従って、胸にのしかかる重りの重量が上がってゆく。そして、実体にすっぽりと身体を覆われてしまったときには、息もつまり、呼吸もほとんどできず、胸が万力で締め付けられて、押しつぶされそうな感じになっていた。


 ほとんど回らない頭を無理やり回し考える。


 考えろ、で、でも。……っ、はぁ。呼吸がままならない。く、苦しい。胸が潰れる。肋骨ごとバキバキに潰れる、潰される。刀も銃も使えない。この状況をひっくり返す方法は……、あるにはある。でも、身体への負荷を考えると、やりたくない。

 ただ、もうしのごの言ってられない。直緒はここには来ない。一人でやるしかない。この程度を一人で対処できないようでは、誰も守れない。やるっきゃない。身体への負荷なんかどうでもいい。


 やってやる。


 刀も、銃も使えない今、力を纏わせられるものが一つだけある。それは私の身体そのもよだ。身体に炎を込めるべく、痛みを忘れ集中する。色々リスクはあるが、今はそんなこと言ってられない。


 覚悟を決め、リスクを恐れなくなると、すっと痛みを忘れることができ、より集中できるようになり、チャージが早まる。


 あとはこの力を解放するだけ!


 そして、身体に込めた炎を力を一気に解放する。私を中心に小規模の爆発が起こり、まとわりついていた実体たちを全て、跡形もなく吹き飛ばした。


 身体が燃えるように熱い。そのおかげで、気持ちも燃え上がっているようだ。


 視界が開け、私の目の前にいる雑魚どもを一瞥し、そいつらにハッキリと言ってやる。


「雑魚ども、かかってきなさいよ! まとめて相手してやるから。そっちがこねぇなら、こっちから行ってやっから、覚悟なさい!」


 拳を握りしめ、声を張り上げる。


「さあ、行くぞォォォォォ!!!」



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