第10話 花見デート 後編 〜優斗&直緒〜

 『優斗』

確かにさっき、ありのままが良いなんて言ってしまったけど、まさか寝るとは思ってなかった。起きるかと思ったが全然起きないし、膝枕に体制変えたときも起きる気配すらなかった。


 起こされると機嫌悪くするタイプだったら、無理に起こすと面倒くさい。とりあえず、自然に起きるのを待とう。


 やる事もないから、ずーっとスマホをいじってると、鏡部からラインが来る。


『デートはどう? 順調?』

『寄りかかられて寝られたから、それに付き合ってる。』

『すっかり心を許してる証拠じゃない。』

『勘弁してほしい。』

『可愛そう。』

『コイツに付き合って歩いて、それっぽいこと言って、昼食べ終わったら、いつの間にかに寝てやがる。』

『あなたは本心? それとも演技?』

『演技。付き合ってるのは監視のためだからな。』

『本当に可哀想。』

『敵に情けか?』

『一般論よ。それに、よくバレないわね。だって、付き合ってそこそこ経つのに全部演技なんでしょ? どっかしらにボロくらい出ると思うけど。』

『恋は盲目。冷静な判断力を曇らせる。』

『一理あるようで無いわね。』

『まあ、本人は俺といるだけで幸せらしいから、アイツに合わせて、表向き一途に付き合えば問題ない。』

『私、あなたのそういう、恋愛を踏みにじるとこ、好きじゃないわ。』

『目的のためだしな。まあ、お前に好かれようと思ってもない。それに、嫌われるのは大歓迎だ。』

『倒しちゃわないの?』

『コイツらはまだ使える。今のところは、な。それに、俺の敵ではない。』

『すごい自信ね。』

『事実だからな。はっきり言えば、お前の相手にすらならん。』

『あっそ。それを言われたからって、あなたへの好感度が上がるなんてことは、決してないから。まあ、お互い割り切って仲良くやりましょうね。新人君も入ることだし。』

『ああ、そうだな。』

『じゃあね、血も涙もないヘイトさん。』

『こちらこそ、愛を重んじるミラー殿。』


 そんなこんなで、鏡部とのやり取りが終わる。にしても、まだ起きないのか。


 その上、電話まで鳴り出す。でも、起きない。いくらなんでも、ぐっすり寝すぎだろ。しかし、誰からだ?


 画面には「お母さん」と表示されている。どうやら、家族からの連絡らしい。


 どうすんだこれ。起こすか? それとも寝かせとくか?


 ちょっと悩んだが、悩むのも馬鹿らしくなってきたので、結局起きるまで放っておくことにする。


────────────────────


『直緒』

 気がつくと、目の前の景色に違和感がある。


 まず、いつの間にかに日差しがだいぶ傾いている。さらに、視界がぼやけている。そして何より変なのは、空が視界の左側にあることだった。ちょっと状況が掴めない。


 えっと、つまりは横を向いてるんだ。とすると、どうだ?


 だんだんと目の前が晴れてくるにつれて、状況を理解する。そして、首を動かすと、下を向いてる先輩と目が合って、そこで気づく。


「あっ、先輩……」

「おはよう、お目覚めかな?」

「はい、もうバッチリと。もう、どきますんで」


 先輩の膝の上から、急いで頭を退ける。


 肩に寄りかかって寝るだけでなく、膝枕までしてもらってたとは。


「ごめんなさい。重かったですよね?」

「いや、全然」


 全く嫌そうなそぶりを見せず、そう言ってくれる。

 時計を見ると、五時前。


 マジ? そんなに私寝てたの?


「先輩、本当ごめんなさい。せっかくのデートなのに、ほぼ歩くか寝るかしかしてないで」

「いいんだ。ありのままでいい、って言ったろ? 寝てるところなんて、その一番だから。さあ、時間もいい時間だからそろそろ帰ろう」

「えっ、夜ご飯とかいいんですか?」

「だって、人様の娘を連れて、あんまり遅くなっちゃダメだろ?」

「別にそんなことないですよ」

「ほれ」


 そう言って、先輩は私が手にもつスマホを指さす。

 促されるようスマホを見ると、メールの多さと、お母さんからの着信履歴にびっくりする。


 うわ、寝てる間にどんだけ来てるんだろう。しかも、どうしたの? 何かあったの? ばっかり。というか、私は電話鳴ってるのに、起きなかったってことじゃん。


「ほらね。いや、見るつもりはなかったんだけど、ロック画面にお母さんって出てるのを見ちゃって……」

「鳴ってるなら、起こしてくださいよ」

「あんまりにも気持ち良さそうに寝てるもんだから、次鳴ったら起こそうと思ってた」

「お母さん、もっと早くかけてよ」

「心配させちゃってることだし、早くお母さんに連絡してあげて、帰ろうか」

「はい」


 私は、先輩に言われるがまま、お母さんに電話をかけ、そのまま帰ることとなった。


 てか、鍵ぐらい持ってるよ! 最初に電話かけるんじゃなくて、メールを先にしてよ!


 結果的に、今日はほとんど歩いて過ごし、その上私はほとんど寝ており、更には解散まで早まった。

 二人して、昼来た道を引き返す。


「いや、本当ごめんなさい」

「楽しかったからいいんだよ」


 歩いている間、このやり取りを駅前に着くまで延々していた。それこそ、本当に改札前まで。


「今日は本当ごめんなさい」

「いいんだって」

「いや、本当謝りきれないです……」

「じゃあ、次楽しみにしてるから」

「次ですか?」

「ああ。どこがいい?」


 次って言ってくれるだけでもびっくりなのに、私が選んでもいいんですか?


「私が選んでいいんですか?」

「今日は俺だったから。順番だよ、順番」


 凄く申し訳ないけど、決めないと。


「じゃ、じゃあ、ど、動物園……とか、はダメですよね。真面目に考えないと」


 言って思ったけど、動物園て子供か!


 でも、あんまり外出しないから、デートにどこがいいとか分かんないし、今行きたいとこを思い浮かべたら、どういうわけか動物園しか出てこなかった。


「じゃあ、今度動物園ね。予定とかは、ラインで相談しよう」


 そう言って、先輩はおもむろに改札をくぐった。


「え、ええ! 良いんですか? 」

「もちろん、じゃあね!」


 そう言って、先輩はホームへと消えていってしまった。


 呆然と改札前で、一人立ちすくむ私。


 と、とりあえず、家に帰ろう。


 そして、帰った私が必要以上に心配していたお母さんに、こってりと叱られたのは言うまでもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る