遭遇



 皆走って旧役所へ向かう。中には早々にバテて歩く者も出てきた。約三十分後に目的地の正面にある路地裏についた。


 するとザンの弟子がひとり飛び出し、正面の門に取りついたかと思うと、するすると鉄柵で出来た門をかけあがりひょいと向こう側へ飛び降りる。


「あいつの稼業は泥棒さ」

 ザンが冗談とも本気ともつかない事を言って笑う。


 男は針金を取り出し南京錠を開けようとしている。


 それと同時に詠春拳の頭がザンに訊く。

「俺達はどこに回ればいいんだ」

「建物右翼の裏側です。二百五十人とは頼もしい。よろしくお願いいたします」

 二百五十人が路地裏から大量に出て来て夜の闇に消えていった。


 つぎはやくざの親方だ。

「あなた方には左翼の裏側をお願いしたい。問答無用で斬って下さい」

「分かった。まかせるがいい」

 親方率いる百人も暗闇に吸い込まれていく。


「私達は?」

「この門のところで私の一団、百五十人と一緒に前衛に加わっていただきたい。よろしくお願いいたします」

「分かりました。手加減せず死あるのみですね」

 ジィの目がキラリと光る。


 南京錠が開いたようだ。するりするりと門が開く。


 暗いが衛兵が玄関口に二人立っているのが見える。

 玄関口には太い門柱がそびえ立っている。三人は二手に別れる。フェイロンが右に、ハオユーとウンランが左に門柱で姿を隠しながら進んでゆく。


 門柱にたどり着いた。せーので一斉に襲いかかる。フェイロンは蛇形拳でまずは衛兵の喉をついて声が出なくなるようにする。


 そのまま後ろにまわり首を締める。時間が長く感じられる。衛兵の体から力が抜けた。しっかりと落ちたようだ。気絶がとけて騒がれてもいけないんで両足の骨を折っていく。

「こいつら俺達に当たって運がよかったよ。兵員宿舎はこれから地獄絵図だろうからな」


 フェイロンが中に入ろうとすると、ハオユーが衛兵の銃を取り上げる。

「そんなもんどうするんだ」

「何が起きるか分からない。用心のためだ」

「むやみに発砲するんじゃないぜ。本館で寝てる人間を起こしてしまう」

「分かってるさ」


 正面玄関口は開いていた。中に侵入する三人。両方に曲がり階段がある、豪奢な作りだ。


 また衛兵がカンテラを持って近づいてくる。フェイロン達は物陰から襲いかかり、落とした後足を折る。


 その時だった。急に辺りが明るくなった。


 暗がりから現れたのは頭を刈り上げ髭を剃りあげ、半袖シャツを着た軍人に戻った与儀だった。


「与儀……」


「ここに来るべきではなかった……言った筈だ。次に会う時には軍人として対処すると」


 与儀の手には拳銃が握られていた。しかし与儀はふとハオユーを見て驚いた様子。ハオユーもまた、銃口を与儀に向けていたからだ。


 じりじりとひりつくような時間が流れる。そこに武器庫からドーンと大きな爆発音が。


「ふふ……」


 与儀は拳銃を後ろに投げつけた。

「正々堂々と勝負だ!」

「望むところよ!」

 答えるフェイロン。龍虎再び。フェイロンが龍形拳の構え。与儀は手刀構え。ハオユーが呟く。


「これは誰も手を出してはいけない闘いだ。絶対に」


 与儀は肩を前に出し、「うおりゃー!」という叫びとともにフェイロンに向かって突進してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る