別れの時



 フェイロンは眩しさで目を覚ました。素っ裸で起き、昨日ずぶ濡れだったふんどしを締め直すもまだ半がわきだ。そのうち体温で乾くだろうとシャツとズボンにも袖を通す。


 昨日の雨も何処かへ行き、今日は爽やかに晴れ渡っている。窓を開けると、もう真夏のむんとした風ではない。初秋の風が部屋にひろがる。


 与儀の姿はない。よもや昨日の事で逃げ出したかと思ったが、それはないなと否定した。


 顔を洗い、とんとんとんと一階へ降りてゆくと与儀がいた。ハオユーもウンランもそれぞれ朝食を取っている。フェイロンもチャーハンを一つ頼む。


 与儀は昨日の事が相当こたえたんだろう、もはや腑抜けのような暗い顔をしている。


「なんで起こしてくれなかったんだよう」

 ウンランが答える。

「だってあまりにも気持ちよさそうにいびきをかいて眠ってたんで。それにあと一時間ほどの距離なんでしょ、目的地までは。どうせ午前中に着きますやん」


 フェイロンは出されたチャーハンをがつがつとむさぼり食う。茶を飲み干すといざ出発だ。


 町の大通りを歩いて行く。フェイロンは途中で仏具店に立ち寄り長めの線香を買い求める。


「墓参りにいきますのん?」

「いいから黙ってついてこい」


 なんだか少し気が立っているフェイロンなのであった。


 しばらく歩くと少し大きな川が見えてきた。フェイロンは雑草の茂みをかき分け、川の砂州に降り立つ。三人も後からついてくる。


 どんどん進んでいくと背丈ほどもある、大きな石の前についた。


「ここだな」

「ここだ」

 フェイロンは線香にマッチで火をつけ、それを地面に突き刺す。それから目をつぶり手を合わせた。


 四人がしばらく手を合わせていると、フェイロンが顔を上げ、いきなり与儀をぶん殴った。


「ここは俺達の父さんの墓なんだ!父さんはお前ら日本軍にいいようになぶり殺された。俺もハオユーも本当は日本軍をかたきと思ってるんだ。あの老婆と同じなんだよ!」


 与儀は口の中を切ったようで血が流れている。


「やれよハオユー」

 与儀が言うと

「いや、お前をなぐったところで恨みが晴れるわけじゃない。俺はやめておくよ」

 ハオユーは冷静に断った。


「もし今度会ったときは、一人の軍人として対処する。世話になったがここで別れだ」


 与儀は寂しそうな背中を見せながら来た道を引き返して行った。

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