3章 ヒトヲ『遠ざける』ヤマイ
最近は、どうしたしまったのだろうか。
まるっきり人と喋れなくなった。
まぁ言葉のあや的なものが存在するはするが。
「⋯⋯よぉ、パズプリの初回無料の――」
同級生、最近よくしゃべっていた同級生が話しかけてきた時も、
「⋯⋯あ、あぁそれか、えっとね――」
こうやって少しどぎまぎしているような口調になる。
何故こうもどぎまぎなっているのかというと⋯⋯
「そうか、お、授業始まる」
そう言って席に同級生は戻っていく。
「⋯⋯カ、カ⋯⋯⋯」
隠していた音が鳴った。顎の音だ。
ああいう風にどぎまぎなっていたのは、顎の震えにばかり気を取られていたから、これを必死になって隠そうとしていたからだ。
「⋯⋯よし、授業始めるぞ」
先生の声が教室内に通る。
その声だけでも震えが微かに起こってしまう。
ただ、授業中はまだいい方である。
なぜなら、声は先生の声しかしないからだ。
まぁしかし、周りの人が存在しているだけでも震えが出てしまうが⋯⋯。
周りの人の息づかいだけで、震えが出てしまう。⋯⋯怖くなってしまう。
――『ヒューマロスト』はそう言う病らしい。
自分でネットで調べてみたのだ。興味本位で調べてみつつ、さすがにそれがないこと位分かっているはずだ、自分でもバカバカしい⋯⋯と思っていた矢先にこの単語が出てきた。
『ヒューマロスト』
原因不明、不治の病。
症状はいたって単純、人を極端に恐怖に思ってしまう病。現代病と言われるものの中で最も危険な病気の一つ。最初は震え等だが、そのうち、孤独死と似たような症状を起こし、最期は自殺やショック等様々なもので大概は死に至る。
とまぁこんな風に、無責任で無感情な明朝体が並んでいた。個人的に「最も~であるものの一つ」っておかしくないか?と思ったのもあるが、それ以上におかしい。原因不明、不治の病、大概は死に至る⋯⋯こんな病、現代にもあったのか。
ただそれと同時に出てきたのがもう一つ。
『ヒューマディザイヤ』
原因不明、不治の病。
症状はいたって単純で、人を極端に欲しがってしまう病気。現代病と言われるものの中で最も危険な病気の一つ。
鏡に映したような病のことが書いてあった。何だこれは。
⋯⋯症状としては主に震え。その欲する欲求が見たらないと、孤独死などで死に至る。
『ヒューマロスト』と同じ流れである。ただ、次が違った。
⋯⋯しかし、人によって違いはあれども、大概はこの現代社会でこの病を持っていない人はいないといわれている、その上、症状を収めるのも人が必要というだけであり、それほど危険視するような病ではない。
⋯⋯不治の病だけれども、死に至るケースはほんの一部、らしい。
さすがにその症状を見たことのない僕は、それを見てなかったかのように忘却することにした。それを覚えていたら、何かしらで考え込んでしまいそうだからだ。⋯⋯例えば、もし、『ヒューマディザイヤ』たる病があるとしたら、なんで僕の『ヒューマロスト』のような症状が存在するのか?⋯⋯とか。
ただそうはならない事があった。
「⋯⋯ちょっといい?」
不意に後ろから声がかかった。僕はその『ヒューマロスト』たる病の症状故にか、授業中で控えめに出したその声にとてもびくりとした。
「あ、ごめんね。驚かせちゃって」
後ろに座っているのは、吹部の同級生の女子。よく見たら、最近一緒に自転車を押しながら喋っているところ⋯⋯という一連の事件の被害者(今回僕の『ヒューマロスト』の発端になったし、その時あまりにもおかしい行動をとってしまったから、こう呼んでみた。)である彼女(代名詞、他意はない。)だった。
「⋯⋯どうしたの?」
僕はその同級生に返事をした。自分の胸の中で、(平常心、平常心⋯⋯)と声をかけながら、その裏返りそうな声をそっと吐いた。
「ごめん、事情は後で説明するから⋯⋯、」
そう言ってその同級生は、机の下の手を机の上にあげて、僕の前に出した。何があるのかと思いつつ、例の症状のせいで戦々恐々している僕はすぐにそれを見てハッとさせられた。それというのはその同級生の手のこと。
⋯⋯その同級生の手は、
「⋯⋯手、握ってくれないかな⋯⋯?」
⋯⋯震えていたのだ。がくがくと、自分で押さえつけられないような震え方だった。
⋯⋯『ヒューマディザイヤ』⋯⋯なのか?
僕の中で、血管が摩擦熱を起こしたような気がした。
それを感じた瞬間に僕は手を握ってあげないといけないと思った。
⋯⋯でも、僕の方の手は、やはりいうことを聞かないものだ。
どうやら、病が進行したようだ。
諦めに似た種の感情が起こる。時同じくして、助けたいという感情が起こる。
手を動かした。
先生は黙々と黒板に白チョークを走らせる。
生徒も板書を書き写している。
その同級生の手に、僕の手を近づける。
手が震える。
僕も、その同級生も。
⋯⋯自分の手の震えが止まらない。
その手に近づけようとすると、手の周りの気圧にはねのけられそうになる。
「⋯⋯ごめん、できない」
なんでかは説明できないだろう。しかし、その同級生は
「⋯⋯うん、わかった」
そう言って、何も気づかなかったように、苦々しい笑みを向け、その震える手を机の下の戻した。
⋯⋯気づかないふりなのは、すぐに分かった。
真意を隠しているんだと思った。
そして、さらに怖さが増した。
⋯⋯人が、とても、とても、怖かった。
⋯⋯まだ衝動に走ることはしなかった。
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